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浦島太郎になっちゃった?  作者: 青キング
4/40

神に問いたい。なんで七人だけなんだ?

小説家になろうの人気作と駄作の違いってなんだろうか?

やっぱり物語の出だしなのかな?

 クリナさんと羽衣の美女に城内を案内してもらった。

 どうやら、この首里城似の城の他に中世ヨーロッパ風の宮殿もあるらしく、後日クリナさんに案内してもらうことになった。

 そして俺は今、視線を集めている。

 クリムゾンレッドの玉座に座らされ、一段降りた先にそれぞれの衣装を身につけた五人の人物が横に一列並んでいる。

 俺の座っている玉座の隣には、やけにニコニコしているクリナさんが立っている。

 ぱっと見七人だけなのに、必要以上に広々とした等間隔で柱の並ぶ閑散とした空間。

 誰からともなく声が上がった。


「自己紹介、してもいいですか?」


 クリナさんがどうぞ、と言った瞬間隅の西洋甲冑で足先から頭まで覆う、立っている五人の中で一番背の高い人が、ガチャと音を立てて一歩前出て、キリッと直立する。


「我の名はラナイト・フリアン。騎士をやっている。姫も戦場に出られるくらい強くならないといけない!」


 甲冑により声が中でこもっているが、ハキハキとしていたので聞き取れた。

 守られる側の姫が戦場に出てどうする!

 俺は心の中で突っ込んだ。


「次、自己紹介、していいですか?」


 ラナイトの横に立っている純白でスカートの大きいドレスを着ている、赤い瞳と同色のロールした髪を胸元くらいまで垂らした美少女が軽く挙手して口を動かし始めた。


「メラと申します」

「…………みじけぇな!」


 つい声に出して突っ込みを入れてしまった。

 それなのに、赤髪の美少女はピクリとも顔の筋肉を動かさず、挙げていた手を無言で下ろした。

 そこでしばし沈黙が生まれた。

 七人居て誰も言葉を発しないのは、あまりにシュールすぎる。そう思い始めていたその時、ファア! と不意に素頓狂な甲高い声が上がり、声の主以外全員がそれに驚いて声のした方に焦点を移した。

 十二の視線がメラの横に立っている、煤けて黄色くなっているボロボロのワンピースを着たボサボサの金髪少女に向いていた。

 少女は段々顔を赤く染めていき、顔全体が赤くなってすみませんすみません! と何度も深々と腰を折り始める。

 なぜか俺は、はかりしれない罪悪感に苛まれて、大丈夫だよ誰も怒ってないから、と両手をフリフリした。

 すると金髪の少女はホッとした様子で、起伏のない胸に片手を当てて一息はぁ、と吐き出した。

 俺はそんな少女の服が異常なまでに気になってまじまじと観察していた。

 詳しく見てみると、ワンピースのあちらこちらに縫い目が表出していて色も黄色がかっている。破れたところを何度も縫い直して着続けているのだろうか?

 艶も潤いも見受けられないショートボブの前髪の長さもバラバラで、統一感がない。どんな生活をしているのか心配だ。


「何かあったのか?」


 無意識に声が漏れだしていた。

 小声だったが皆に聞こえたのか、不思議そうな顔をして前に立つ五人が俺を見る。


「いや、なんでもない……名前は?」


 俺は咄嗟に発言を取り繕うように尋ねた。

 はっとしたようにみすぼらしい姫候補は、危なげな口の動きで喋りだす。


「なな名前は、ええええと、るるるルイネといい言います。すすすすいませぇ~ん!」


 またも深々腰を折り謝った。


「謝ることなんて何もしてないだろ」

「そうですよルイネさん。必要以上に謝っても相手を困らせるだけですよ」


 俺の横で唐突にクリナさんが話に割り込んでルイネに忠告した。

 するとすみません、と消え入るような語尾を最後にルイネは黙った。


「長いわぁ!」


 と、突然不満げな声が響いた。

 大きな声を上げた左から四人目の姫候補に残りの六人がばっと顔を向けた。

 視線を向けられた明るい緑のロリータドレスを着ている茶髪ツインテールの女の子は、腕組みをして傲岸に言い放つ。


「何で自己紹介せにゃならんのだ、名前ちゅーもんは自然な形で覚えていくもんじゃろがい。わらわはせぬからな!」


 自己紹介はしない、と大胆に主張してきた。

 そっちの方が俺は楽で良いのだが、即座にクリナさんが一歩前に出て右手の人差し指を立て叱るように言う


「ミクミさん、こういうルールなんだから文句言っちゃ、めっ、でしょ!」

「何が、めっ、じゃ。どこぞの母親か!」


 もっともな突っ込みが素早く茶髪少女の口から吐き出された。

  その突っ込みにクリナさんは、もっと若いです! と頬を膨らませた。

 そんな二人のやり取りを興味もなく傍観していると、茶髪少女の隣に立つマリが前に出て口を開いた。

 そしてあっさり、マリですよろしくねと笑顔で自己紹介した。

 ものすごいちゃっかりさんである。


「あのーもう終わっていいですか?」


 唐突にラナイトが挙手して聞いてくる。

 俺は躊躇いも戸惑いもなく、告げる。


「よし、じゃあ終わり。解散解散!」


 告げた途端、姫候補の左から三人は待ってましたとばかりにそそくさと入り口と併用の出口に向かっていく。

 間断なく論じあう、黒いストレートの長髪の美女と茶髪ツインテロリ美少女。その二人を仲裁したいがどうすればわからない様子で、二人にワタワタ視線を往復させるマリ。

 俺は呆れて、腹の底から溜め息を深く吐き出した。



 玉座の間というのだろうか、一面赤いそこからようやく出られた。

 結局、言い合ってた二人はマリの勇気ある仲裁によって和解できたようで、つい先程ツインテールロリが玉座の間を後にした。

 クリナさんは俺に、出口で待ってて、と言い残してマリと仲良くお喋りしながら去っていったが、いっこうに姿を現さない。


「クリナさん、酷いです」

「あなたですか?」


 俺がポツリとこぼした言葉に被さって、聞き取りやすい少女の声が、横から聞こえた。

 反射的に横を窺う。

 そこには、白い三角きんから飛び出た艶のある暗緑黄色の髪を、後頭部の下の方で左右に二つ束ねている少女の不思議そうな顔がある。


「…………わぁ!」


 俺は遅まきに豆鉄砲を食らった。

 そんな俺を見て、少女はビクッと肩を揺らして後ずさりした。

 そして少女の全身が視界に入る。低身長で細身の体を覆う、黒く丈の長い服の上に白いエプロンいわばメイドさんだ。

 それにしても、何の用なのだろうか? もしかして不審者と思われてる!?

 しかし訝しそうに見ることなく、少女は恐々と口を開く。


「シュン……君とはあなたですよね?」


 口にした呼称に親しみを感じて、気負うことなく頷く。

 少女は安堵したように肩を落とした。


「クリナさんに、シュン君を案内しといて、と頼まれまして」

「クリナさん、人に頼むくらいなら自分案内すればいいのに」

「ほんとですよねフフ」


 落ち着いた物腰で、小さなメイドさんは片手を口に添えて微笑を漏らした。

 そして表情を戻すと、それでは案内しますシュン様、と恭しい物言いで翻り歩き出した。

 俺もありがとう、と短く返して着いていく。

 束ねている暗緑黄色の髪が、さすがと言うほどの真っ直ぐな歩き方で、ちょこっと揺れる。そんな後ろ姿を眺めながら歩いていると、少女は身を翻して立ち止まった。

 目の前には木目の露になっている黄褐色のドアが。横を見ると、壁に沿ってズラッーと同様のドアが奥まで並んでいた。


「ここは姫候補様達とシュン様がこれから暮らす、個室のある廊下です。中にはベッドにデスクと、揃っているのでご安心ください」


 マニュアルに乗っ取ったような口調で、説明してくる。表情を変えず続ける。


「料理につきましては、シュン様が満足できるほどの食材の種類がないゆえ、飽きるかも知れませんがご了承ください」


 早口に言い切り深く腰を折ってメイドの少女はお辞儀する。

 そのまんまの体勢で顔だけ上げて、相変わらずの表情で俺を見上げて聞いてくる。


「他に聞きたいことはございますか?」

「そうだなぁ、じゃあくだらないかもしれないけど質問するよ?」

「どうぞ」

「ここの名前は何て言うの?」


 切り出した瞬間、はぁと溜息を吐かれて俺はしまった! と心の中で呟いた。

 少女は折っていた腰を戻して、少し冷たくなった眼差しで俺を射止め口を開く。


「竜宮城ですよ、海底都市竜宮の総合統治所となる都市の心臓です」

「ってことは海の中ってこと? どうりでプランクトン食べてたわけだ」


 にわかには信じがたいが、俺の居た世界でないことは薄々感じていた。

 あの時の料理が映像として甦る。あちゃーと額に手をつける。

 その行動をどう感じ取ったのか、お疲れなのですね、とわざわざドアを開ける。

 次いで僅かに感情の入った浮き沈みのある調子の声で、ゆっくり休んでください、と暗緑黄色の髪のメイドは口にした。

 その厚意に遠慮なく、俺はドアをくぐる。

 背後でゆっくり静かにドアが閉められた。

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