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浦島太郎になっちゃった?  作者: 青キング
35/40

少女達は俊が大好きだ

 王室の天蓋ベッドの脇、キャンとレオンは外形に黄金の金属が施されたシルクの椅子を並び合わせて腰掛けていた。


 天蓋ベッドには仰向けの楽な姿勢で峻が寝かされている。


「会議、どっちになるのかな?」


 キャンがもの悲しげに隣のレオンに聞いてみた。


 レオンは曖昧に答える。


「どうだろう」


「玉手箱、クリナ使うのかな」


「やっぱ心配?」


「お伽噺だけど、玉手箱の煙で体がボロボロになるんでしょ」


「あれは作り話であって、本当のことではないんじゃないかな」


 キャンを安心させようとレオンは、言葉を選んで言った。


 大事な親友二人のことを頭に浮かべて、キャンは天蓋ベッドの峻に複雑な感情の映った目を向ける。


「クリナとマリが同じ人を好きになったら、私はクリナを応援するよ。マリの方がたぶん事実をすぐに受け止められると思う。クリナはいつも無理するからね、自分の気持ちを押し殺してでも譲る。もしくは支えようとする。素直になればいいのにね」


 静かにレオンは彼女の言葉を聞いていた。


 そして、聞かずにはいらなかった。


「キャンがもし、クリナさんやマリさんが好きな人と同じ人を好きになってしまったとしたらどうする?」


「そんなの決まってるよ」


「譲るの?」


「ううん、なりふり構わずその人にアピールする」


 たち悪そうに少しだけ口の端を吊り上げてキャンはニヤついた。


 キャンらしいな、とレオンは思った微笑んだ。


 笑い合う二人の耳に短兵急なドアをノックする音が届いて、ドア越しで快活な老人の声が告げる。


「会議の結果をお知らせに参りました、入ってよろしいですか?」


 老人の声にキャンが、おかしみを感じつつ応じつつドアを開ける。


「そんな畏まらなくてもいいですよ、オドワさん。今、王様いませんから」


「礼儀としてじゃ、お主も素だと品がないのう」


 キャンはオドワの呆れたような視線にハッとし、急にメイドモードに切り換える。


「オドワ様の申されている事に納得しかねます」


「それで、峻君の様子は変わりないかの?」


「ええ、ずっと寝られておりました」


「ふむ、ならばよい」


 キャンから峻の容態を聞いて頷いたオドワはベッドまで歩み寄り、抱えていた玉手箱を枕元にそっと置いた。


 六人少女達は皆憂いを浮かべた表情で、峻の眠るベッドに取り巻く。


「姫候補の方々は、何をなされるのですか?」


 最もなキャンの疑問に、オドワがさも平然と答える。


「峻君がこの世界で過ごした記憶を取り戻す代わりに、あっちの世界の記憶を消し去ってしまう儀式じゃよ」


「そんな夢想みたいなことできるの……前代未聞だわ」


「キャン、素に戻ってるよ」


 横合いからレオンが勧告すると、すました顔で咳払いした。


「その儀式を行うのに当たって、姫候補の方々は何をされようと?」


「見守っていたいのだろうのう、峻君は皆から好かれとるのええことじゃ。ほおっ、今クリナが玉手箱を開けるぞ」


「なにっ!」


「キャン、素に……まぁいいか」


 クリナが枕元の玉手箱にシーツの上に乗って向き合い、いろいろ情がない交ぜの顔で金糸の紐をほどいていく。


 五人の姫候補達もクリナの傍で、気を張りつめて眺める。


 上蓋が外されると、ちゃちな爆発音が中でして白煙が玉手箱を包むぐらいに噴き広がる。


 次第にベッドを覆うくらいまで立ち込め、王室はすぐに煙くなった。



「ケホッケホッ、なんであの子らこの煙平気なわけ?」


「静かにせんか、キャンよ」


「この煙咳き込まないよ、キャン」


 ケホッケホッと忙しなく咳き込むキャンは、一番手近な窓を開け放って煙を外へ追い出そうとする。

 開け放たれた窓から煙は外へ出ると、もくもくと上っていった。


「ん? なんかすごい煙っぽいな。というかここどこ!」


 煙の晴れた王室に先程までなかった青年の声が響いた。峻である。


「えええ、なんで皆そんな悲しそうな顔してるの?」


 峻が口に出すのも無理はない。目端に涙を溜め始めるクリナ、肩と連動してすすり上げるルイネ、口を細く開けて弱々しく声にならぬ声を漏らしているマリ、むっとして口を結んでいるが瞳一杯を潤ませているラナイト、ポカンと毒気に当てられているミクミ、下唇を噛んで赤く腫れた目を怒らせている風なメラ、そんな様々な表情の六人の少女達から視線を真っ向に浴びているのである。


「シュンく~ん、良かったぁ起きてくれたぁ」


「突然にお別れなんて絶対しないでくださいよ、俊さん」


「もう笑っても喋ってもくれなくなるかと思った、でもほんとに良かった」


「君は人を心配させるプロフェッショナルなのか、心配させた懲罰だ後でゆっくり説教してやる」


「近頃に私の手料理を食べていただこうと思ってましたのよ、私を困らせたあなたに拒否権はありませんわ」


 涙目で嬉しさを口上に乗せて、五人めいめいが俊に泣きすがる。二人素直じゃなく気持ちとは裏腹な台詞を言う者もいたが。


 そしてミクミ一人だけ、五人の少女にあらゆる方向から体を寄せられ泣きすがられる俊に冷静な質問をする。


「俊、お主はわらわらのことわかるかえ?」


「当たり前だろ、ミクミは何を変なこと言ってるんだ?」


 怪訝そうにする俊に、ミクミは頬を緩ませて微笑みかけた。


「なら、ええんじゃ」


 珍しく柔らかな笑みを見せたミクミに、俊はますます怪訝そうになる。


「俺が寝てた間に何かあったのか? ってちょちょちょっと皆離れてくれ! 身動きが取れない!」


 少女五人が体に密着しているのが耐えられず、離れてもらおうと説得を始めた。


 俊に叫ばれた五人の少女達は、急に恥ずかしくなって密着していた体をバッと離してベッドから降りる。


 泣きすがりの拘束から脱せられた俊は、自分もベッドから降りようと左手に力を込めた……


「うおっ」


 まるで力が入らず左に傾いていた上体はシーツに倒れる。


 そこで俊は自分の身体の異変に気づく。


「左半身に感覚がない」


 短兵急な峻の衝撃的な吐露に、少女達は無論謎に思って疑問が湧いてくる。


 クリナが質問の口火を一足早く切った。


「シュンくん、左半身の感覚がないってどういうこと? 冗談なの?」


「冗談とかでは……」


 まるで峻の言葉を信じていないクリナに、俊ははっきりと言い出せず俯いて口ごもる。


 暗く顔を俯けた俊を見て、隠し事をしているとうっすら感じ取ったクリナは心配げに重々しく質問する。


「ほんとのことを言って、シュンくん。左半身の感覚がないの?」


「……ああ、それで起き上がれない」


 沈んでぽつぽつと自白した俊を辛く思いながらもクリナは、気丈夫そうに峻の優しく肩に手を置く。


「大丈夫よ、私がシュンくんの傍でずっと面倒みるから、ね?」


 明るく慰めてくれているクリナを、俊は申し訳なく見つめ返す。


「クリナさんは構わなくても、俺は構うんです。皆に迷惑かけると思うと情けなくて……」


「君は勘違いしているぞ」


 顔を歪ませて述べる俊の声を遮って、教え諭すようにラナイトが口を挟んだ。


「勘違いですか?」


「大きな勘違いだ。君は私達に迷惑をかけると言ったが、私達は迷惑かけられても一向に構わないぞ。むしろ、頼られて嬉しいくらいだ」


 ラナイトの発言を聞いたルイネが、慌てた様子で喋り出す。


「そうですそうです、ほんとに俊さんの体が不自由でも私がつきっきりで看護します」


 二人の大胆な発言に触発されたマリも、


「そうだよ、笑ったり喋ったりできるならずっと傍にいてあげる」


 少女達がおのおのに喋るのを聞いていた俊の頬が第にひきつりだす。


「私も食事で食べさせてあげますわ……仕方なく」


 俊は恥ずかしそうなメラの発言でふと気づいたが、片手でも食事はできるんじゃないかと。


 息も止まるような暗い雰囲気になるかと思いきや、楽天的に和気藹々と盛り上がり出した五人の少女に、最軽量最年少のミクミが呆気にとられて傍観していた。


 ミクミは言うともなしに口にする。


「お主ら、峻のこと大好きなんじゃの……」


「ルイネさんは峻さんのことを好きじゃないんですか?」


 耳敏くミクミの言明を聞いたルイネが、首を傾げて尋ねた。


 ミクミはざっくばらんに答える。


「好きでないわい」


 いつの間にか他の峻大好き少女四人も会話を聞いていたらしく、胡乱な者を見る目ような視線をミクミに注いだ。


「わらわは嘘など吐いとらんのじゃい!」


 王室に居合わせた全員が、必死なミクミの喚きに思わず失笑した。







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