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浦島太郎になっちゃった?  作者: 青キング
23/40

神に問いたい。ミクミは何を思惑している?

 眠りから目覚めた俺は、ある意味苛烈な夢見だったからか、それともカバーに頭をぶつけた鈍痛からか、再び寝ようという気にはならなかった。

 カプセルの中にある開閉ボタンを押し込むと、俺の頭上で空気の抜ける高い音を出しながら、透明なカバーが開いていく。

 上体を起こし、伸びをする。

 その時、カプセル室のドアを誰かが外側からノックした。


「お客さん、入っていいですか?」


 この店を営む若い男性の、控え目な声だった。

 俺はお構い無く、とすんなり返した。

 音静かなドアを半分くらい開けて入るなり、男性店員は穏やかに尋ねてくる。


「疲れは抜けました?」

「ああ、はい」


 尋ねられるまで実感がなかったのだが、体が軽く感じた。この世界の技術は、現実世界にもひけをとらないくらいだ。


「ミクミさんを起こしに行きますけど、どうされます?」

「どうされますって?」

「一緒にミクミさんを起こそう、ってこと」

「いえ、早く着替えないといけませんし……」

「寝姿、見たくないんですか?」


 見たくない……こともない。

 いつもは高飛車で、時々大人じみていて、そのくせそれとない仕草は年相応のところがある。

 きっと気を許した寝姿は、子供みたいにあどけないんだろうな。

 そんな時のミクミは、公言できやしないが可愛いと思う。

 でも、寝姿を見るのはやめておこう。起きたら蹴られるだろうからな。


「どうします?」

「俺、着替えてカウンターで待ってます」

「じゃあ、すぐに起こして連れてくよ」


 男性店員はドアを閉めて、去っていった。

 俺もタオルから、着てきた服に身なりを直してカプセルの部屋を後にし、階段の先にあるカウンターのあるスペースで待つことにした。



 少し待っていると、男性店員が眠たげなミクミを連れて俺の前まで歩いてきた。

 俺とミクミを一瞥して、口を開く。


「お支払は、全額をミクミさんが一人で?」

「…………ああー、そうじゃったの」


 遠くを見るような目をして、ミクミは唸った。

 ごそごそ上着のポケットの中をあさくり、小さい金貨三枚を指先に挟んで男性店員の前に差し出す。


「確かに受けとりました。ミクミさん、一つお願いしてもいいですか?」

「なんじゃい?」

「もし、姫になったら僕を竜宮城で働かせください」

「ほー、そんなことかえ。いいぞえ、願ったり叶ったりじゃ」

「ありがとうございます!」


 男性店員は深々と頭を下げ、嬉しさの溢れた声で礼の言葉を述べた。

 ミクミが袖を引っ張ってきて、爪先立ちで耳打ちしてきた。


「こやつは何でわらわに頼んだんじゃろか? お主は意見とかないのかえ?」

「いいよいいよ、人は多くて困りはしないしね」

「そうかえ、ならば良いのじゃがな」


 心配するように、ミクミは言う。何か気がかりなのだろうか?


「わらわは、もう帰るぞえ。いくぞ」


 ミクミは焦って逃げ出すように、駆け足で店を後にしていった。

 突然、どうしたのだろうか? 


「ご来店、ありがとうございました」


 軽く俺に会釈して、カウンターの奥に男性店員は消えていった。

 ……ミクミを追いかけないとな。あいつ、急に走り出して何を?



 俺が追いかけていると、ミクミは人の疎らな市街地に、突然足を止め立ち尽くした。


「ん? どうしたミクミ?」


 不思議に思って、ミクミに近づき声をかけるが振り向きもしてくれなかった。


「おーい、ミクミ?」

「……なんじゃい、存外足が速いのだな」


 顔だけこちらに向けて、どこか疲れた声でミクミは言った。

 俺は気にせず、素直な質問をぶつけてみることにした。


「どうして、突然走り出したんだ?」


 しばし俺の顔を力ない視線で見つめてから、スッと右手を出してきた。


「その手は何?」

「わらわの手を、握ってみるのじゃ」


 恥ずかしがるわけでなく、何かを俺に教えようとしている仕草に感じた。

 俺はミクミの出した手を、若干躊躇しつつも握った。


「次期王に手を握ってもらえるなんて、一生の誇りになるのう」

「ミクミが握ってって、言ったんだろ? おかしくないか?」

「そうかえ? お主は辛気くさくとも次期王なのじゃぞ。国王様じゃぞ」


 ミクミは顔に、俺には読み取れない感情を湛えて小さく笑った。

 わけがわからず、問うてみる。


「なんで笑ったんだ?」

「辛気くさいに突っ込まないとは、お主らしくないの」

「いやもう、突っ込みは野暮かと」

「つまらん男じゃのー」

「失礼だな!」


 俺が一言突っ込むと、ミクミは片手で腹を抱えて大きな笑いを堪える。


「人の突っ込みを笑うなよ……」

「それでいい、それでいいのじゃ。もう手を離していいぞえ」

「手を離していい判断の基準が、わからん」


 ミクミが何故、俺に手を握らせたのか、甚だ疑問である。

 ミクミは笑いが鎮まってきたのか、ふぅと一息吐いて、腹を抱えていた手で公園のある方向を指さす。


「時間もないし、帰るかの」

「……あ、ああ」


 ミクミの行動はいつも、考えが汲み取れない。

 聞いても、はぐらかされそうだし__瞬間腕を叩かれる。

 はっとして、叩いたミクミに目を向ける。


「時間がないと言うたじゃろ。突っ立っとるでないぞ」

「あ、そうだったな。ゆっくりしてられないな」


 俺はミクミの隣を歩いて、皆の待っている公園へ向かった。















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