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浦島太郎になっちゃった?  作者: 青キング
21/40

神に問いたい。時計台に登っていいですか?

 メラとの半ば地獄行きデートを、存分に味わった。

 多少具合が悪いまま、俺はマリ達が待っている公園まで、少しだけばつが悪そうなメラと戻ってきた。

 やけに心配している顔で戻ってきた俺とメラに、姫候補達加えクリナさんが囲む勢いで寄ってくる。


「君、体調が悪いのなら睡眠を取るといい。今なら私の膝が空いているぞ」

「病院に行ったほうがいいよ、シュン君。私が連れてってあげるから、ね?」

「睡眠ならば、布団でするべきじゃ。わらわは城に帰って寝るのが、最適だと思うがのう」

「シュ、シュンさん! 私とデートしたばっかりに」

「私も具合悪いときは、ゴロゴロするもん」


 各々の私情を挟んでいるが、俺を労ってくれているらしい。

 突然、隣のメラがはぁ、と呆れたような溜め息を吐いて俺を囲う美女美少女達に何か言う。


「悠長に戯れていますと、鐘が鳴ってしまいますわ」


 マリの忠言に五人はしばし固まり、そのあとざざっ、と俺から身を引いた。


「ごめんなさいね、やっぱりシュン君を見てると心配になっちゃって」

「そうだな、ついつい守ってやりたくなるな」

「わらわは、そこのベンチで寝とるからのう」

「すいません、すいません! 気持ちもわからず、勝手に心配して……すいません!」

「ねぇ、次私がデートしていい?」


 突然あがったマリの陽気な声に、ラナイトさんとクリナさんとルイネが揃って、そちらに視線を移動させた。

 俺も正直、驚いている。

 三人が呆けたような顔で言う。


「マリが自分から申し出るなんて、意表をつかれたわ……」

「自ら申し出てもいいのか、これは……」

「マリさん、意外に勇気持ってますね……」


 三人はそれぞれ違う理由で、呆気にとられているらしい。

 俺は、隣の冷静者メラに助け船を求める視線を送るが__

 いつの間にやら、メラは隣から消えていて、手近のベンチでミクミと寄り添って目を瞑っていた。もはや冷静者というより、人を見過ごす冷然者ではないか?


「シュンくん!」


 ベンチの方に見ていた俺の耳に、クリナさんの子供を叱るような声が届いた。

 驚いて、素早くクリナさんに顔を向ける。

 クリナさんはお得意の『めっ! モード』に入っていた。


「人がお話してるときは、その人を見なきゃ、めっでしょ!」

「食事休憩したいので、少しの間ベンチで座ってていいですか?」


 クリナさんが(かぶり)を振る。えっ、ダメなの!?


「食事休憩してる時間なんてないのよ。ねぇ、マリ?」

「うん、クリナの言う通りだよ」


 聞かれて、マリは嬉々と頷いた。


「全くだ、マリのデートが終わらないと、私もデートできないからな。君は今すぐマリとデートするべきだ」


 ラナイトさんまで同意する。食事休憩くらい、くれてもいいじゃないですか!

 俺の心の内など知りようもないマリは、じゃあ早く行こう、と非の打ち所のない笑顔で促してくる。

 俺って、姫候補達加えクリナさんに振り回されてるよなぁ……誰かに相談しようかな?



 ここ竜宮に住む人達はほとんどが善良で、急遽やって来たよそ者の俺にも、気兼ねなく接してくれる。

 マリも例に漏れない。だから今こうして、市街地にあるオープンカフェで休憩をくれているのだ。

 カフェテーブルの真向かいで、コーヒーカップを両手で挟み持ってちょろっとカフェオレを啜った。

 俺がその姿を見ると、口につけているカップで半分隠れた頬が、仄かなピンクに染まる。

 カップが口から離れると、少しだけ顔を下に降ろした。


「あまり見られると、さすがに恥ずかしい」

「あっ、ああ、すまん」


 俺は咄嗟に謝る。どうやら、じっと見ていたらしい。見つめられたら、誰だって恥ずかしいのは当たり前だよな、気分を悪くてさせないためにも気を付けよう。

 二人の間が静かになると、周囲の談笑が明瞭に聞こえそうな気がしてくる。とても居心地が悪い。

 俺が肩身狭く感じてきた頃、唐突にマリが沈黙を破る。


「前に訪ねた高い搭、覚えてる?」


 高い塔? ああ、あれか、最近できたって言う時計台か。

 マリが脳裏に浮かべている物を、所々曖昧ながら思い出した。両サイドに置かれている球体のせいで、下ネタの暗喩に思えてしまうオブジェだ。


「今から、行かない?」

「具合は良くなってきたから、全然構わないぜ」


 マリの提案に、俺は快く頷いた。



 時計台の周りは疎らに人が遊歩し、ときどき塔に登っていく人達の姿もあった。

 種々様々屋台も、歩く客達を引き寄せていた。

 マリが俺の腕を引き寄せる。突然で驚いた。


「あの屋台、お土産を売ってます! 見に行きましょう?」


 子供によく見るはしゃぎ様で、楽しげに瞳を光らせている。

 マリと見てると、不思議と晴れ晴れする。


「行くか、何が売ってるのか気になるし。それより腕を放してくれないか、マリ?」

「うん、わかった」


 内心恥ずかしながらも頼んだら、マリはすんなりそれも何事もなかったかのように、さっと掴んでいた腕を放した。

 さっきのって、もしかして演技……?


「時間限られてるから、早く行こ?」


 心持ち顔を緩ませて誘ってくる。

 微笑みかけられると、結構弱い。

 え! 百個!


「お、おう」


 今さらになって、美少女と並んで歩いていたことに気恥ずかしさを覚えた俺は、遠慮ぎみにマリの斜め後ろをついていく。

 マリがはしゃいで見ていた屋台の前まで来ると、屋台主が面食らったみたいに顔を強張らせた。


「い、いらっしゃい」

「ねー見て、このキーホルダー可愛いと思わない?」


 屋台主さんが顔を強張らせるのに、一顧だにもせず弾んだ声で聞いてくる。

 垂らすように持って親指サイズのキーホルダーを、俺の顔の前に差し出しきた。

 時計台に丸耳でライトブラウンの熊が、何も掴めなさそうな指なしの手で抱きついて、顔を覗かせている愛らしいキーホルダーだ。


「これ、みんなに買っていこうよ」

「ラナイトさんとか、すごく喜びそうだな」


 その姿を想像してみるに、手のひらに置いて延々と眺め続けそう。


「このキーホルダー、う~んと何個いるのかな」


 一つをつまみ持って、買う個数を瞳を上に向かせて考え始めた。

 マリと公園で待っている五人、あとは……いるだろうか?


「合計で……わかんないや。とりあえず百個ぐらい買っていこう」


 え? 百個? そんなに買って誰に渡すんだろう?


「なぁ、マリ? 百個も買ってどうするんだよ?」


 マリはこちらに顔を向け、小首を傾げる。


「どうするって、竜宮城でお世話になってる人達みんなに渡すんだよ。おかしい?」


 マリの優しさが染み出しているが、持って帰れないんだよ、百個だと。あと金銭的な方も心配……。


「あっ、お金足りない。じゃあしょうがない、諦める」


 平然と諦めように見えるが、本当はすごく落ち込んでるのではないか? 根拠はないけど、俺はそう感じた。

 どこかで働いて、プレゼントできるくらい稼ごう。マ


「ごめんなさい、買えるお金がありませんでした。そのときは絶対に何か買います」


 マリは深々と腰を折り、屋台主さんに誠心誠意込めて謝った。

 俺も慌てて腰を折る。


「無理して買われてもなぁ……」


 屋台主さんは困ったような声をだす。

 そろそろ立ち去らないと、屋台主さんが困り果ててしまう。


「マリ、あんまりゆっくりしてると、時計台登る時間がなくなるぞ」


 折った腰をし、俺はマリの耳元でそう囁きかける。

 得心したように、頷いてくれた。


「じゃあ、時計台行ってきます」

「お、おう」


 相変わらず屋台主さんの顔は、緊張で引きつっていた。

 俺達はお土産屋台から、高く望む時計台に歩き出した。

 数歩程歩いたところで、屋台を振り返ってみる。

 屋台主さんが胸を撫で下ろして、はぁーと解放されたみたいな吐息を発していた。



 時計台入り口の係員に素手でボディチェックをされ、パンフレットらしき三ページ程度の冊子を渡された上で、いざ二人で両開きで門まがいの戸口をくぐった。

 入り口を閉めると薄暗かった。しかし、俺達が今居る底の空間の中央に、六つの方向から斜めに入る光が集まって円状に床を照らしていた。

 光の線を追って徐々に振り仰いでいくと、螺旋階段に沿って下から段々大きくなる真円の窓が、一定の間隔で天辺まで六つ据えつけられていた。

 俺が知っている限りの世界的な建造物には到底あり得ない、洗練された神秘のアートのように思えた。こんなんじゃ言い表せていない。

 しばし見惚れに見惚れて、感嘆の声を漏らすことすら忘れていた。


「綺麗だねぇ」


 隣のマリも心を奪われているようで、うっとりした声を出して呟いた。

 そんなマリの横顔も、俺をドキッとさせる。

 すごい綺麗だ。

 何か思い出したように、マリは目を見開いた。


「こうして眺めていたいけど、天辺まで登って誰かと街を一望したいなぁ、って前から思ってたんだよね。だから一緒に登って街を眺めようよ」


 どうかな? と前ぶれなく下から覗き込んでくる。

 面食らって、俺は少し背中を仰け反らせる。


「いいね、俺も一望してみたかったし…………もうそろそろ顔を退かしてくれない?」


 はっきり言って、心臓に悪い。

 眼前のマリは笑顔を浮かべる。


「ごめんごめん、さぁ行こ行こ」


 俺を促しつつ、螺旋階段の一段目に足を乗せた。

 一歩遅れて、俺も一段目に足を乗せた。



 足下の階段が終わり、同じ幅の踊り場から軽い鉄扉を開けると、眩しいくらいの光が襲ってくる。

 思わず目を瞑ってしまう。

 少しずつ瞼を上げていくと、マリが心打たれたみたいに声を漏らしているのが聞こえた。

 瞼が上げきると、すうっと景色が入り込んできた。

 光源のない薄墨色の海中をバックに、碁盤の並びで砂道と木造の建物が奥へ真っ直ぐ続いている。

 人の動きが総括して眺められ、眼下から人々の賑わいが聞こえてくるみたいだ。


「風が気持ちいいねぇ」

「ああ、気持ちいい」


 俺とマリを爽やかな微風が撫でていく、。

 マリのショートカットがサラッサラッ、と優雅に揺れる。


「あのさ、一つお願いしていい?」


 そう切り出して、白石の厚い柵に前のめりに体を預け、背中を見せ話し始めた。


「この世界に来て、楽しい?」


 唐突で答えの出しにくい質問だ。

 自分の生活を、現実世界とここの世界とで比較してみる。

 現実世界では、世に決められたプログラムのように学校に行き、家に帰っては不条理な世の中に対する怒りを、筋トレしたりネットゲームに時間を費やしたりてま紛らわした。一日目的もなく街を歩き続けたこともあった。

 しまいには、自己満足で人を殺して終わった。

 で、ここの世界ではどうだ。

 クリナさんにハラハラドキドキさせられたり、ラナイトさんと見回りをしたこともあった。

 マリの買い物に付き合ったり、ミクミの睡眠不足を解消させてやったり、ルイネの頼みで手紙を取ってあげたこともあったし、メラの大食いぶりには心底驚かされた。

 思い返す出来事の全てが、笑いを込み上げさせる。


「比べものにならないくらい、楽しいぜ」


 俺は本心から、そう答えた。


「それなら、良かった」


 言って体を翻し、俺の方を向く。

 整った顔に、微笑みが浮かんでいた。


「私も、楽しいよ。いつまでも皆で笑っていたい、だけど……」


 マリは視線を俯け、言葉を中断した。

 俺に何を伝えようとしているのか、全く見当はつかなかったが、気休め程度にはなるかと思い口にした。


「大丈夫だよ、きっと」

「その言葉が聞けて、少し安心した。ありがとう」


 まだマリの瞳には、物思いの色が残っている。

 ポツリとマリは呟いた。


「最終的には、姫候補の中の一人だけが次期王と結ばれ、竜宮の王と姫になるんだよ、それって選ばれなかった姫候補にとっては失恋と一緒なんだよ? 仲が一瞬で裂かれるんだよ? 姫候補の全員がさっぱりした人なら、憎悪とかは生まれないかもしれないけど、そんなのほとんどあり得ないことだよ。私はこのままでいたい! ダメ……なのかな?」


 途中、強く言い放った所もあったが、だいたいが疑問形の台詞だった。

 最後は弱々しく、俺に問い掛けてくる。


「次期王の答えが聞きたいな?」

「少し、考えさせてくれ」


 俺はさして知識のない頭脳を働かせ、答えを探す。

 ただ一つ浮かんだ、このままでいられる方法をおもむろに口にする。


「一夫多妻すれば、一緒にいられるじゃないかな……それ以外には思い付かないよ」


 はっきり言って、その答えに自信がなかった。

 俺の力のない言葉に感情を読み取ったのか、マリが強引に話題を移しにかかってきた。


「あんまりゆっくりしてられないね、時計台にも登れたし、悩むのはやめにして帰ろう?」 


 明るい声で促してくる。

 俺は返す言葉もなく、そうだな、と応じることしかできなかった。

 マリが俺の傍を、いそいそと通っていく。

 その後を追いながら、俺は踏み出す足を重く感じた。

 姫候補達の人生が、自分のたった一回の選択で変わってしまうという儚さと、竜宮の王になるという計り知れない重責を、改めて認識させられて実感が湧き苦しかった。

 俺にそこまでの責任感があるかどうか聞かれたら、ないと俺は答えたい。

テスト期間なのに、例の通り日常的に書き進めてた。

学生の本分は勉強! と俗に言われますが、人間は日々勉強しているんですよね。(屁理屈に聞こえなくない)

また後書きでくだらない話をしてるな、と思われるかも知れないのでここで切ります。

この作品を楽しみにしている人には感謝です。(これでいなかったら可哀想な人だよな俺)

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