末永く、幸せに暮らしましたとさ 【冬の童話祭2017】
むかしむかし、あるいはずっとさきのこと、とある王国にそれはそれは美しいお姫様がいました。
しかし、お姫様はひどく心が冷たくて、なににも喜ぶことなく、悲しむことなく、たまに口を開けば、平気で他人を傷つけるようなことばかり言います。
今日は、そんなお姫様の十二の誕生日。偉い人たちをたくさん集め、お城を上げてお祝いをしました。
はなやかに彩られた大広間で、にぎやかなパーティ。おいしい食事に、きらびやかな衣装、陽気な音楽、優雅な舞。
けれども、心の冷え切った氷のお姫様は、それらをとてもつまらなそうに眺めているだけ。
どれもこれも、なにもかも、くだらない。周りがどんなにおもねり悦ばせようとしても、お姫様はちっとも笑いません。
やがてパーティも終わりに近づいてきました。最後はプレゼントの時間です。みんなでお姫様に贈り物をするのです。
大広間に集まったあまねくたくさんの人々が、次々に素敵なプレゼントを献上します。きれいな宝石、黄金のティアラ、豪華なドレス、美しい詩。
人々は、自分こそがお姫様に取り入ってみせるのだと、代わる代わる苦心して用意したプレゼントを渡していきます。
けれども、心の冷え切った氷のお姫様は、それらをとてもつまらなそうに眺めているだけ。
さて。そうして誰も彼もがお姫様のところに群がる大広間のすみっこで、一人の女の子がぽつんと立っていました。貧しい貧しい召使いの女の子。お城にいるすべての家来たちの中で、もっとも貧しい女の子です。
女の子はあまりにも貧しく、不器用で、気のきいたことは何一つできませんでした。プレゼントなど用意できたはずもありません。しかし、お城に仕える者は誰であれ必ず贈り物をしないといけない決まりでしたので、女の子は困り果てていたのでした。
そして、ついに女の子以外の全員がプレゼントを渡し終えました。誰が何を贈ったのかを事細かに記録していた大臣が、一人だけまだ何も渡していない女の子がいることに気づき、大声で呼びつけます。
女の子は玉座につくお姫様の前に立たされました。お姫様はとても冷ややかな目で、いかにもみすぼらしい女の子を見下ろします。すべてを拒む凍てついた氷の目です。
女の子は許しをえて顔を上げました。お姫様が氷の目で射竦めてきます。しかし、女の子は不思議と、お姫様のことが怖くありませんでした。それどころか、数えきれないほどの贈り物に囲まれてつまらなそうにしているお姫様が、とても痛ましく見えました。女の子には、お姫様が本当はとてもつらいのではないかと思えてなりませんでした。
お姫様の力になってあげたい。女の子は素直にそう思いました。けれども、女の子は貧しくて不器用です。ほかの人たちが贈ったものより上等なプレゼントなんて、あげられるはずがありません。そもそもプレゼントを用意することさえできていなかったのに、いまさら何ができるでしょう。
それでも、女の子はどうしたらいいのか考えました。なにかお姫様にあげられるものはないか、一生懸命に考えました。そしてついに思いつきました。女の子は、自分がいつも持ち歩いているものの中で、自分がもっとも大切にしているものを、お姫様に贈ることにしたのです。
それは、心です。
女の子はつぎはぎだらけのスカートのポケットから、裁縫用の大きな鋏を取り出すと、その場で自分の心を切り刻み始めました。刃こぼれしたお古の裁ち鋏で、ちょきんちょきんと切り取っていきます。
贈るのはもちろん、心の中でもいっとういいところ。やさしさ、いとしさ、おもいやり。いっぺん残らずすべて切り取ります。そして両手がいっぱいになるほどに積み重なったそれらを、女の子はお姫様に差し出しました。お姫様は、それまでと同じようにつまらなそうに受け取って、どうでもよさそうにそれらをぱくりと飲みこみました。
その、次の瞬間です。お姫様の目にぽうっと暖かな光が宿りました。その光の熱で、冷たく固まっていた氷はたちまち溶けていきます。ぽたぽたと、涙となって溶けていきます。女の子のお姫様を想う気持ちが、お姫様に届いたのです。
お姫様は生まれて初めて、しあわせで胸が満たされました。お姫様は、最高の贈り物をした女の子に、感謝の気持ちを伝えようと玉座から立ち上がります。
しかし、そこでお姫様は言葉を失いました。目の前で女の子が凍っていたからです。お姫様のために暖かな心をぜんぶ切り取ったことで、女の子は、かつてのお姫様と同じ、なににも喜ぶことなく、悲しむことない、冷たい心と氷の目を持った人間になってしまったのです。
お姫様はひどく嘆きました。そしてすぐに、もらった心を返そうとしました。しかし、一生懸命にお姫様のことを思いやった女の子の心は、とても強く、お姫様の胸にしっかりと根を張って、もはや切り離すことはできなくなっていました。
心をそのまま返すことはできない。ならば、とお姫様は決心しました。
ならば想いで返そう、と。
それからお姫様は、女の子を自分のそばに置くことにしました。女の子からもらった、優しさと愛しさと思いやりをもって、一生懸命に女の子の世話をしました。感謝の想いを言葉にして、何度となく女の子に言い聞かせました。
しかし、凍ってしまった女の子は、それらをつまらなそうに聞き流すだけ。
それでも、お姫様は諦めませんでした。自分がそうだったように、いつか氷が溶ける時がくると信じて、あふれる暖かな想いを女の子に注ぎ続けました。
――――――
やがて月日が流れゆき、とある王国はなくなりました。戦争に負けてなくなったのです。
戦火を逃れたお姫様と女の子は、森のはずれの水車小屋にふたりで暮らしていました。お姫様はもはやお姫様ではなく、女の子ももはや召使いではありませんでした。今のふたりは、ただのふたりの女の子です。
今日は十五の誕生日。ふたりの十五の誕生日。召使いだった女の子の誕生日がわからなかったので、そういうことにしたのでした。
お姫様はこの日のために、特別なプレゼントを用意していました。女の子のための最高の贈り物です。
あれから、お姫様の心は成長し、今や立派な花を咲かせていました。
想えば想うほど強く、他人を愛しきる心です。
お姫様は、自分の胸に咲いた美しい花を、そっと優しく摘み取って、女の子に渡してやりました。女の子は、それまでと同じようにつまらなそうに受け取って、どうでもよさそうにぱくぱくと食べつくしました。
するとどうでしょう。女の子の目についに暖かな光が宿りました。そして一雫の涙がぽたりと零れ落ちました。それからはあっという間です。氷はみるみる溶けていき、次々に熱い涙に変わりました。さらに涙は胸に沁み渡って、鋏で裂いた心の傷を癒していきます。やがて氷がすべて溶ける頃には、傷もすっかり塞がりました。
「ありがとう」
お姫様は女の子に言いました。いちばん伝えたくて、ずっと伝えることができずにいたこと。それを今やっとちゃんと伝えることができました。
「こちらこそ」
女の子はお姫様に言いました。女の子はただお姫様の笑ったところが見たかったのです。それを今やっとちゃんと目にすることができました。
互いを大切に想い合い、暖かな笑みを交わす、お姫様と女の子。
ふたりはそれから末永く、幸せに暮らしましたとさ。




