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桃太郎寓話伝  作者: ノラギツネ
旅立ち編
3/8

2ノ巻 仙術

翌日、妹のカグヤと共に桃太郎は山に山菜を取りに来ていた。


「これは食べられる。これは食べられない。食べられる、食べられる、食べられない……。」


カグヤは山菜を凄い勢いで見定めて桃太郎の担ぐ籠に詰めて行く。


「カ、カグヤ?俺達だけで食べる量にしては多すぎないか?」


「まだまだよ。私達が食べる分は十分だけど、都に売りに行く事を考えたらもう少し量が欲しいの。」


「なんだ?都まで売りに行く心算だったのか?」


「うん、少しでも家計の足しになれば良いなと思って……。」


妹ながら良く出来た娘だと桃太郎は思った。


「お前は良い嫁さんに成るよ。良い相手が居れば逃すなよ?行き遅れるぞ?」


「では、行き遅れたら桃兄さまにでも貰って貰いましょう。」


カグヤがふざけた事をいってきたので“ぺしっ”とカグヤの額を人差し指を弾いてやった。


「痛いよ、桃兄さま。」


「お前が馬鹿な事を言っているからだ。」


「ぶっ~。」


カグヤは頬を膨らませて不機嫌を表している。


「ほら、膨れてないでそろそろ帰るぞ。これだけ採れば十分だろう?」


「あっ!待って桃兄さまっ!」


カグヤが後ろから走って追いかけて来た。

2人で山道を下っているとそれは突然俺達二人の前に現れた。


「ガルルルルルゥゥゥ!!」


一見すると犬……、いや狼に見える。

しかし、普通の狼とは明らかに違う部分が有った。

狼の頭部から一本の角がこれ見よがしに飛び出していたのだ。

桃太郎は突然目の前に現れた狼の角を見ると、後ろに隠れる妹のカグヤに声を荒げて告げる。


「カグヤっ!気を付けろ、こいつ……『鬼』だっ!俺から絶対に離れるなよっ!」


「も、桃兄さま!?」


角の生えた狼、通称『鬼狼』強さは普通の狼に毛が生えた程度と言われているが、鬼狼の厄介な所は徒党を組むという所だ。

1頭見たら30頭は居ると思え。とは、誰の言葉だっただろうか?

しかし、幸いと言って良いのかこの鬼狼以外、他の鬼狼の姿が見えない。


「一頭だけ逸れたか?」


しかし、一頭とは言え、口元から覗くあの鋭利な牙に噛み付かれれば、ひとたまりも無いだろう。

桃太郎は鬼狼を刺激しない様にゆっくりとした動作で腰の刀を引き抜く。

鬼狼はそれを敵対行為と取ったのか、グルルゥ!と低く唸ると身を低くしてから身構えると、此方に一気に駆けて来た。


「っ!?は、早いっ!!」


3丈は有った距離が一瞬で埋まってしまった。


「(不味いっ!やられるっ!)」


そう思った瞬間、頭では無く体が動いた。

刀を持った手が咄嗟に防御の構えを取ると、直後……。


ガチィンッ!!


と、横に構えた刀身に鬼狼の尖った牙の進行を留めた。

しかし、鬼狼は刀身ごと押し込もうと牙をガチガチと言わせて突進してくる。


「グッ!調子に乗るなっ!」


右足で鬼狼の腹を思いっきり蹴り上げると、キャイン!と声を上げて鬼狼は桃太郎から距離を取った。


「桃兄さまっ、大丈夫ですか!?」


「ああ、大丈夫だ!危ないから俺の後ろに付いていろよ、カグヤ?」


「は、はいっ。」


横っ腹を思い切りけられた鬼狼は余程堪えたのか、桃太郎から距離を取ると暫し痛みが引くのを待って居るのか、距離を保って此方を窺い続ける。

暫しの睨み合いが続いたが、沈黙を破ったのは鬼狼だった。

ガルルルゥゥ!!

と威嚇に似た声で吠えたかと思うと再び目にも止まらぬ速度で突進して来た。


「ぐっ!?」


しかし、今度はバカ正直に正面から突進して来ない。

代わりに擦れ違い様に牙や爪で少しづつ此方に傷を付けて行く。

何度も何度も何度も……。

背後にはカグヤが居るので下手に避ける訳にもいかずに桃太郎は防御に専念する。


「桃兄さまっ!血がっ!」


「大丈夫だっ!傷は浅い!それよりもカグヤ、その場を動くなよ?」


桃太郎は高速で駆けまわる鬼狼を目で追う事を止め、瞳を閉じた……。


「(俺じゃあ鬼狼の速度を目で追えない。なら、目以外で捉えれば良い。)」


静かに自身の感覚を研ぎ澄まして行く……。

すると世界から段々と音が消えて行く。

桃太郎の耳に届く音は最早、吹き荒ぶ風の音のみ……。


「そこだっ!!」


一閃!!刀を水平に薙ぐ。

すると、今まさに喰い掛かろうとしていた鬼狼を横一文字に両断、首を刎ね飛ばすっ!

しかし!同時に鬼狼のやたら固い体と打ち合った為か、刀が中程からパキンッと折れてしまった。


「やった!」


後ろで見ていたカグヤが勝利を確信する。しかしっ!!


ガウガウガウガウッ!!


切り飛ばされた鬼狼の首は地を跳ねつつ、再び飛び掛かって襲い掛かる。

鬼狼の首は桃太郎の手にしていた刀に食らいつくとそのまま桃太郎の手から刀を奪い去る。


「桃兄さまっ!」


「カグヤ、少し離れろ!アレを使うぞ!」


アレ、とカグヤは聞くと何をするのか思い付いたのかサッと一歩二歩、桃太郎の傍から離れる。

カグヤが離れるのを確認した桃太郎は両の手を鬼狼へと向けると、両の手から紫電が迸る。


「仙術……、雷火っ!!」


構えた両の手から炎の球が飛び出すと、鬼狼の生首へと命中して燃え上がる……。

鬼狼は今度こそ物言わぬ死体へと相成った。


「ふう……。今度こそ仕留めたか……。」


桃太郎は地面に転がる折れた刀を拾い上げる。


「(お爺さんに貰ったばかりなのに、早速折れてしまった……、でもこれが無ければカグヤ共々生きては居なかっただろう。刀をくれたお爺さんには感謝しないとな。)」


「桃兄さまっ、お怪我は大丈夫ですか?」


鬼狼が動かなく成ったのを確認したカグヤが俺を心配して近寄って来る。


「ああ、大丈夫、大丈夫。こんなの唾付けとけば治るよ。」


「いけませんっ!きちんと治療をしないとっ!傷口を見せて下さい!」


「お、応……。」


こういう時のカグヤは有無を言わせない迫力が有る……。

桃太郎は着物の上を脱いで傷口を露わにする。


「桃兄さま、傷だらけじゃないですか!結構深く切れてる所も有りますよ……。」


「なに、これ位何て事無「えいっ」痛てててっ!」


カグヤに傷口をバシッと叩かれた。

何すんの?(涙)


「やせ我慢なんてよして下さい。どれだけ心配したと思っているんですか?」


激怒プンプン丸のカグヤは頬を膨らませて怒っている。


「悪い、心配させた……。」


「……もう良いです。桃兄さまが無事なら……。さあ、それよりも傷の手当てをしないとっ!」


カグヤは周囲に生えている薬草を用いて簡単に傷薬を作ると、持って居た手拭いを破いた包帯で処置をしてくれる。


「……うーんっ。この切り傷は相当に深いです。このままでは包帯で閉じれませんね。……桃兄さま、少しジッとしていて下さいね。」


そう言うとカグヤは桃太郎の傷口に向って両の手を向ける。


「仙術……、月光」


銀の光がカグヤの両手から傷口に降り注ぐ……、暫くすると傷口は跡形も無く綺麗に治癒していた。


「……うっ。」


「カグヤっ!」


カグヤがその場で崩れ落ちそうに成るのを受け止める。


「カグヤ、大丈夫か?急に仙術を使うなんて無茶しやがって……、お前まだ上手く使いこなせて居ないだろう?現に倒れそうに……「大丈夫ですよ。」」


「大丈夫、ちょっと力を使い過ぎてふら付いただけですよ。ほら、こんなに元気……、ウウッ。」


「ほら、無茶をするな。ほら、背中に担いでやるから、山を下りよう?」


満足に体を動かせないカグヤを背中に背負う事にした。


「も、桃兄さま!?わ、悪いですよ、桃兄さまも怪我をしているのにっ!?」


「怪我はカグヤが治療してくれたから大丈夫だよ。それよりしっかり掴まってろよ?こんな所に鬼が出たんだ、急いで家に帰ろう。お爺さんとお婆さん二人が心配だ。」


「はいっ。」


それから桃太郎はカグヤを背負い山を下る。

山道を進み、お爺さんとお婆さんが待つ家が見えて来るであろう所まで来て背中のカグヤが空中を突如、指し示す。


「桃兄さまっ!?アレ、あそこ……、煙が……。」


カグヤが指し示す方向には黒い煙がモクモクと空へと立ち昇っているのが見受けられた。


「あっちの方角は……、家が有る方だ!?」


煮炊き程度ではあれだけの煙は上がらない筈……。

桃太郎はカグヤを背負ったままに、更に帰路の速度を上げる。

カグヤも振り落とされない様、桃太郎の首元へと腕を回して衝撃に耐える。

家へと戻った桃太郎とカグヤが目にした物は轟轟と燃え盛る自らの家だった……。


3丈は大体9m程だそうです。

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