1ノ巻 二本昔話
本日二話目の投稿です。
むか~し昔、ある所にお爺さんとお婆さんが仲睦まじく暮らしていました。
お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。
お婆さんが川で洗濯物を洗っていると、川上から大きな桃が“どんぶらこ、どんぶらこ”と流れて来ました。
「あら、まあ。美味しそうな桃だこと、持って帰ってお爺さんと食べましょう。」
そう言ってお婆さんは桃を川から引き上げると、持って帰ってお爺さんと食べる事にしました。
しかし二人で食べるにしても少々大き過ぎるので食べやすい大きさに切り分けておく事にしました。
「えっ!?」
桃を二つに割ると出て来た物にお婆さんは大変驚きました。
一方、お爺さんは山で柴刈りをしていると、竹薮で黄金色に光輝く一本の竹を見つけました。
「おおっ……、これは珍しい竹じゃ、持って帰って婆さんに見せてやろう。」
お爺さんは手に持った鉈で「えいやっ」と叩き切ると、中から珠の様な赤ん坊が出て来たでは在りませんか!
お爺さんは赤ん坊を連れて大急ぎでお婆さんの待つ家に戻ります。
「ば、婆さんやっ!た、大変じゃ!竹の中から赤ん坊が出てきおった!!」
お爺さんは竹の中から出て来た赤ん坊を家に連れ帰り、自分の身に起こった有り得ない現象を鼻息荒く話しますが、お婆さんはお爺さんが全く耳に入っていない様です。
ただ呆然とお婆さんの目の前に有る二つに割れた大きな桃を凝視するのみでした。
「お、お爺さん……、桃の中から赤ん坊が……、出て来ましたよ……。」
お婆さんは桃の中から出て来た赤ん坊を抱かかえて入り口で佇むお爺さんに赤ん坊を見せる。
お互いに抱かかえる赤ん坊に、お爺さんお婆さんはお互いに驚き合う。
しばしお爺さんとお婆さんは二人の赤ん坊の事を話し合います。
2人の間には孫はおろか、子供すら居らず共に特異な生まれ方をした赤ん坊二人はきっと神様からの贈り物に違いない。
そう結論付けると、この二人の赤ん坊は自分達で育てようと話が纏りました。
「あなたの名前は……、桃太郎よ。」
「お前の名前は……、カグヤじゃ。」
桃から生まれた男の子はお婆さんに『桃太郎』と名付けられる。
竹から生まれた女の子はお爺さんに『カグヤ』とそれぞれ名付けられました。
桃太郎とカグヤはお爺さんお婆さん二人の愛を持って育てられ、のびのびと成長して行きました。
それから時が流れて17年と少し……。
「桃兄さまっ、どちらです?」
黒髪美しく、見目麗しい女の子が兄を探して家から出て来る。
「こっちだ。家の裏手だ!」
そう答えたのは女の子に桃兄さまと呼ばれた青年こと桃太郎である。
桃太郎の返事が少女に届くと、声のした家の裏手へとやって来た。
桃太郎は姿を現した少女を見て声の主を確信した。
「如何した、カグヤ?」
少女の名はカグヤ、桃太郎と共に育てられた少女で、桃太郎の妹だ。
「薪割の最中でしたか。お邪魔でしたか?」
「いいや、もう終わる所だ。どうした?」
「お婆さまが夕食にしましょうって。」
「そうか、分かった。川で顔を洗ったら、すぐ行くよ。」
「分かりました。準備をしておきますね。」
そう言ってカグヤは家へと戻って行った。
「さて、顔を洗って来ようかな。」
家から少し離れた川まで行って手早く顔と手を洗うと家へと戻り、お爺さんお婆さん、それに妹のカグヤと共に夕食を食べる。
何て事の無い何時もの風景に俺は幸せを感じている。
何時までもこの時間が続けば良い、そんな事を考えながら夕食の汁物を啜っているとカグヤが話を切り出して来た。
「桃兄さま?明日は何か用事が有りますか?」
「うん?……特に用事は無いかな。どうした?」
「ならば、山へ山菜を摘みに行くのに一緒に付いて来て下さい。」
「山菜かぁ……。」
カグヤが山で摘んで来た山菜は煮ても焼いても旨いからなぁ。
「分かった、一緒に行こう。」
「やったぁ!流石、桃兄さま!」
カグヤは余程嬉しいのか食事の間、始終笑顔が絶えなかった。
「うぉっほん!桃太郎、カグヤ。山に入るのは構わんが、気を付けて行くのじゃぞ。都に行った時に聞いた話なのじゃが、何でも最近、近くに『鬼』が出現しておるらしい。」
『鬼』と言う単語が出て来た事で一瞬だが、場が静寂に包まれる。
『鬼』とは、野山を掛ける動物等とは違い、ある日突然に現れる災厄である。
一度姿を現せば、暴虐の限りを尽し目に移る全てを破壊するまで止まる事が無い。
都では何度も討伐の為に兵を投入していると聞くが、討伐の度に大きな被害を被ると聞いた事が有る。
都の様な大きな町であれば防衛の為に兵が駐在している事も有るが、小さな村等ではひとたまりも無い。
そう言う小さな村々は互い助け合いながら日々を凌いでいる。
人々は日々、『鬼』の脅威に戦々恐々の思いで暮しているのである。
「まあ、こんな山奥の一軒家に『鬼』など現れる事は無いとは思うがのぉ……。」
「ほっほっほっ……」とお爺さんは笑う。
「じゃが、何か有ったら悪いと思ってのぅ。これを……。」
お爺さんは一振りの刀を桃太郎に差し出す。
恭しく桃太郎は刀を受け取る。
「お前も、既に元服を迎えた身じゃからな、遅くなったが儂からのお祝いの品じゃよ。カグヤが嫁に行くまではそれで守っておやり。」
「ありがとう、お爺さん。」
「桃兄さまだけなんて、ずるい……。」
「あらあら、カグヤの分もきちんと有りますよ。」
そう言ってお婆さんは細長い小箱を取り出して、カグヤの前に差し出す。
カグヤはお婆さんから小箱を受け取ると、そっと蓋を開いて見せる。
「わぁ……、綺麗……、お婆さまありがとうっ!」
カグヤが小箱から取り出したのはべっ甲のかんざしだった。
「カグヤの綺麗な黒髪に似合うと思ったのよ。」
「お婆さま……、大事にするね。」
その日は桃太郎もカグヤも突然の贈り物に嬉し過ぎて中々寝付く事が出来なかった。
この幸せが何時までも続けば良いのに……。
しかし、その幸せは何時までも続く事は無い。
運命の歯車が噛み合う瞬間がすぐ其処まで忍び寄って居た事など、静かに寝息を立て始めた桃太郎とカグヤには知り様が無かった。
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