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VRMMO体験談

鉱山での攻防

 俺たちはその日も退屈していた。何にも、やる事がなかった。

 スキル・レジストスペルを上げるため、延々とマジックファイアを浴びていた仲間がこう言った。おい、鉱夫狩りにでも出ようや。やる事がなかった俺たちは即座に賛成した。


 ウィジーがゲートスペルを唱え、俺たちはマニック鉱山の中心へ出た。俺たち全員、赤ネーム。要するに、人を三人殺した事がある。目の前に一人、よく、駆け出しの奴が死んだ後着けたままにしているローブを着た鉱夫が居た。俺が殺した。俺は斧と爆薬を使う。そいつは斧だけで十分で、一振りで死んだ。


 なぜ、無抵抗な奴をいたぶるのか?退屈だからだ。

 退屈は人を堕落させる。とんでもないゲス野郎に仕立て上げる。


 俺たちは他チームとの抗争に勝てた試しがなかった。海外サーバーでラグがひどいせいもあるが、俺たちの技量のせいもあった。何より、金がなかった。


 ポーションは俺が摺った。材料の秘薬は、デカいチームが抗争のため、安く売り出す町を作る。その時を狙って、先に買い占めた。そのまま売っても中々儲かったが、ポーションをまとめる樽を作るのがめんどくさかったので、やらなかった。


 多少の金を作る事は簡単だった。俺たちのチームの隣に住んでる日本人プレイヤーの家の前でこう言った。よう、金貸してくれ。大体は貸してくれた。一度、貸し渋ったことがあり、腹が立った俺たちは家の周りに通行障害となる"スツール"を山ほどおいてやった。ついでに、たまたま勝てた敵プレイヤーから剥ぎ取った最上級の鎧も置いてやった。次から貸し渋る事はなくなった。さすがに悪いと思ったので、時々後者の方だけ、お供えとして置いてやった。


 だけど、大きい金はなかった。抗争にはカネが要る。俺たちのうちだれも、金を稼ぎたがらなかった。

モンスター狩りなんて何が面白いんだ?


 まず、魔法を唱える秘薬が要る。こいつがバカにならない。安売りを狙ったとしても、負けるたびにすべてなくなるので、いくらあっても足りない。

 次に、鎧と武器。最上級のモノとなると"ボッ"てきやがる。

だけど、なくちゃ話にならない。最上級の鎧を着けてる相手には、多少優れている程度の武器だと、まるで歯が立たない。


 だから、俺たちは勝負の結果よりも、殺しそのものを楽しんだ。他にコミュニケーションを取る方法を知らなかった。

 倒した相手の鎧と武器一式をまとめて、そいつの名前を刺繍したバッグに詰め、売ったことがある。

 偶然、そいつが買いに来た。俺たちは何もしなかった。そいつも何もしなかった。それからも、そいつを殺すたび、そいつは俺たちの家に来て、自分の装備を買い戻した。

 それからそれは、勝利で終わった日の儀式となった。あまり、行われる事はなかったが。


 そうだ、マニック鉱山の話だった。

俺たちは鉱夫を殺した。五人ほどやったところで、奴らも面白がり始めた。

マニック鉱山は衛兵の警備圏内との境目にある。そして、警備圏内は、鉱石の出が悪い。

 奴らはなんとしても俺たちを殺してやろうと、圏内と圏外、その境目で、俺たちを挑発する言葉を何度も吐いた。


 俺たちは面白がった。ウィジーと、ジッグス、ガンズ、俺、ロト。

ガンズがリーダーだった。ガンズがやるぞ、と言った。ガンズはマジックリフレクトを剥がすため、ダメージの入らないマナ・ドレインのスペルを唱えた。俺は爆弾を投げた。ウィジーはエクスプロージョンのスペルを唱えた。ジッグスは毒を扱えたので、ポイズンを入れた。ポーションじゃ治療できない、厄介なものだ。俺たちの中でも、俺ぐらいしか治療できない。鉱夫は死に、幽霊となった。俺が面白がって周りをグルグル周ると、そいつも面白がったのかグルグル回った。俺たちはしばらく奇妙なチークダンスを楽しんだ。


 そうこうしてる内に、見覚えのあるギルドタグが目に入った。

クソッタレ・HongKong Gaming Maniacの奴らだ。


 ヴァーチャルの世界で悪人を倒すのは大体が善人でもPKKでもない。

ほとんどはナショナリズムに刺激された若者である。奴らは日本人の俺たちが嫌いだった。


 俺たちも奴らが嫌いだった。奴らとは、コミュニケーションが取れない。

奴らは魔法も剣も使わなかった。ペットを使った。

ドラゴンと悪夢の馬だった。


 そういう奴は大体、こうする。さあ、奴らを殺せ。自分は逃げて、相手が不利と見るや、自分もなけなしの魔法を唱えて攻撃する。


 やり方はある。ペットをうまく引きはがす。

俺たちの全員がそれをうまく出来なかった。全員でペットを殺すだけだった。そうすると、大体はうまくいかない。


 俺が言った。おい、HKMだ。帰るか?

ガンズが言った。こんな面白い事になってんのに、帰れるかよ。


HKMは、大体は相手より多い人数にならないと攻撃を仕掛けてこない。

HKMタグの奴が5人、見えた。ドラゴンと悪夢の馬が動き始めた。


 ウィジーがマジックウォールを鉱山の入り口にはった。ドラゴンはキル命令を出されているので、俺たちに直進する。それがうまくハマった。全員でドラゴンに攻撃すると、一度は追い返せた。


 マジックウォールは魔法は貫通してしまう。それが良いところで、悪いところだ。

HKMのメイジが、召喚生物を鉱山の中に召喚し始めた。ウィジーが逐一、ディスペル魔法で処理した。俺も手伝ったが、魔法はあまり得意でないので、二回に一回は失敗した。攻撃の旗手となる、ガンズとジッグスのマナは取っておきたかった。


 その内、ウィジーのマナが切れた。俺はマジックウォールをはれるほど、魔法を使えなかった。

まず、メイジが二人突入してきた。俺は、おや?と思った。テイマーのペットから来るのがいつものやり口だからだ。まだ、ドラゴンの体力を回復させきってないのかと判断し、俺たちはメイジにあたった。


 特には手間取らなかった。四人対二人なのだから、当然といえば当然なのだが、ウィジーはマジックウォールのために、マナを貯めていた。から、三体二だろう。胸は張れるはずだ。


 一人はあまり良い鎧を着てなかったようなので、俺が斧を一振り、爆弾を一投げすると瀕死になった。そこにジッグスのポイズンスペルが入り、死んだ。俺は死体を解体し、首はマジックウォールのすぐ手前に追いてやった。


 長期戦になりそうだと判断したガンズが、資材を取りにリコールスペルを唱え、拠点へ帰った。瞑想しているウィジーと、俺と、ジッグスが残った。三人でマジックウォールを回した。俺は大体失敗するので、俺が成功した時にのみ二人は瞑想した。


 その時だった。ウィジーが刺された。ウィジーのステータス表示は毒になり、HPがすごい勢いで減っていった。毒の塗られた剣だ。ステルスで鉱山の中に入っていたHKMが居た。まさか、こんな、ロールプレイ用のクソスキルを対人戦で使う奴がいるなんて。俺は心底驚いた。


 ウィジーは死んだ。俺はステルスの乱入者を殺した。えてして、こういう奴はスキルに余裕がないので、正面からの戦いには弱い。ステルス成功確率を上げるため、鎧を着けていなかったので、一瞬だった。首と体はさっきの奴と同じようにした。


 面白すぎる、この状況。と俺は言った。ジッグスも同意した。


 俺たちはマジックウォールをはるのをやめ、マナを貯める事にした。最後のマジックウォールがはられている時、ガンズが帰ってきた。ウィジーが死んだ経緯を話すと面白がっていた。


 正面衝突だ。俺たちは、ときの声を上げた。盛り上がった。マジックウォールが切れた瞬間、ドラゴンが四体、悪夢の馬も四体、なだれ込んできた。俺たちは散り散りに逃げ出した。


 そして、全員やられた。鉱夫が俺達の死体を解体し、侮辱するため、頭を股間の上に乗せるよう、並べ替えていた。その上でダンスを踊っていた。


 幽霊のまま合流して、お互いこう話した。やられちまったな。


 だれかがこう言った。まぁ、面白かったから、いいんじゃない。


 だれかが同意した。俺も、同意した。

ネトゲって正直こんなもんだよね

本当は、時計仕掛けのオレンジみたいに書きたかった。ただなんか書いていく内に懐かしくなったので、忠実にかきました。

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