おつかい かえり
野生児が出てきます。この内容は作者の幼少期の体験がおおもとになっております。
さて帰路につきます。
ガチャポンを凝視している姉をお駄賃として買ったチロリアンチョコ1個で釣り上げ商店を出る。超楽勝ルートをなぞって帰ろうをする私を姉はぎゅーっと留める。
「ようちゃん、なに~?」
「ふふ~!ちかみちしよう!」
さっそくチョコをぽいっと口にに入れ、にんまり笑う姉。
「みっちゃんちの前通るとすっごくはやいよ!」
みっちゃんとは裏手に住んでいる幼稚園仲間だ。真裏なのでたしかにすぐだがある問題が…。
「はやく帰ろう!」
てくてくと行きのルートと間逆のコースを選択し、直進、左折するとみっちゃんの家が見えて来る。ようは一筆書きでロの字を書くように進んだ事になる。
「ようちゃん、みっちゃんちからはおうちに帰れないよ?」
我が家から商店への道は実は結構な急こう配で裏手の区画はちょうど2階の屋根あたりに相当する。のべにして5Mほどだろうか。
「大丈夫~、となりの空き地からおりれるよ!」
隣の空き地には階段やはしごが設置されているわけではなく少々疑問をもつが、ぐいぐい手を引かれて空き地へ入りそのままふちまでたどり着く。
「ようちゃん~、すごく高いよ…」
まさか飛ぶつもりだろうか…。
「あのね、ここのさんかくになってるところ板チョコみたいにしましまになってるでしょこれに手と足をかけて降りるの。すごくはやいよ!」
この幼児は背中にジュースという重しをつけたままL字になっている壁を使い、年末年始に放送されるアイアンマンの最後の上りのような事をする気らしい。うん、ありえない。
「お手本ね~うんしょ」
するすると降りてゆき、こちらを見上げて手を振る姉。
「のんちゃんもはやく降りてきなよ~」
「むりー!」
「しょうがないなぁ」
おおげさにため息をつくと今度は無造作に前面の壁に手をかけはしごを上がるように登ってくる。そして登りきる直前にクルッと向きを変え壁に背を向け、
「おしりを壁にくっつけるでしょ?おててで支えて足をしたの段にかけるの。そんでおててをいっこ下の段にかけて、今度はあしをいっこ下におくの。そしたらおりれるよ?」
つまりL字になっている壁に背を押しつけ、両手で体を支えて下降し、両足で固定したらのちまた両手を支えにして下降する、と。ちなみにチョコのしましまとは3センチほどのみぞの事だ。リアルロッククライミング…。
「いつもやってるから大丈夫!落ちてもちょっといたいだけだよ~」
言ってる間にまた降りてしまうと残り1Mほどでジャンプ。猿か!
「いたいのはやだ~」
仕方がなく、半べそをかきながらそろそろとふちに腰をかけると両足をおろす。ジュースが重い。ゆっくりと手を離し両足で体を支えずりさがるようにしてから両手で壁のみぞに手をかける。ずりずりと時間をかけて半ばまで過ぎたあたりでこちらに向かって吠えている犬の声が聞こえた。さっきの犬の散歩のおばさんがあっけに取られたような顔をしている。ぎゃー見られた!わたわたと焦りながらどうにか地面に着地。大地ってすばらしい。
「のんちゃんゆっくりだったね?待ってる間に笹はっぱでおふね作れたよ?」
無自覚にえぐる言葉を使ってくる。
「おうちは見えてるのにいっぱい時間かかっちゃたね~。ひまわりの道の方が早かったかなぁ」
本当にな。そしたらこんなに怖い思いする必要もなかったよ、姉よ。
「おてていたい…。はやくおうちに入りたい。」
「今度はやくおりれるように練習しようね!」
御免こうむる…。しかし結局その後何度も練習させられ、このルートは中学に入学し、土地の所有者が家を建てるまで10年程使用する事になる。合掌。
「「ママただいま~」」
「ようちゃん、のんちゃんおかえりなさい。ずいぶん時間かかったわね。お菓子選ぶのに迷ったの?」
「ん~ん?ちかみちしたら遅くなったの!」
「?ようちゃん、ママよくわからないわ。」
「ママおつり、あとこれ!ちっちゃいチョコ!」
「のんちゃんチロリアンチョコのイチゴ味にしたの?」
「これねママにおみやげ~。すきでしょ?のんちゃんはこれ!クッキーのやつ。いっしょに食べよう?」
「あー!いいなぁようちゃんさっきゼリーのやつ食べちゃったぁ」
疲労困憊だが、自分の株を上げるのは忘れません。