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徴兵制度を復活させよう

作者: さきら天悟

「今年度、わが社の業績が停滞している。

このままなら半年後株価が危険水域に達するというシミュレーション結果が出ている。

今日はこの対策を検討する。

早速、考えてきた案を披露してもらおう」

円卓の中心に座る社長の木下は意見を求めた。


「開発部の上杉です。

製品の性能向上が第一です。

現在、無人化の開発を進めています。

近日中には試作品をお見せすることができると思います」


「むん、そうか。

では、この月末に見せてもらおう」


「いえ、もう少し先になります。

再来月の予定です」


「再来月?

では製品はいつ完成するのか」

木下の指は机を叩き続けていた。


「3年後には完成させます。

ただ…」

上杉は口ごもった。


「さ~ん~ね~ん~ご~」

木下は机を叩いた。

「で、ただなんだ?」


「まだ数十億円の予算が必要です」

上杉は下を向いた。


「もういい、次」

木下は天を見上げた。

「次、営業部」


営業部長の武田が立ち上がる。

「与党政治家に働きかけています。

今年は前年より1000億円の予算増加が見込まれます」


「それで、うちの製品の受注額はどれくらい増えるんだ?」


「今年度は領海防衛用の艦船に当てられる予定です。

計画によりますと、2年後に我が社の受注があると予想されます」

武田はハンカチで額の汗を拭った。

木下の会社は軍事企業だった。


「もういい。

では調査部」


調査部の服部が立ち上がる。

服部は説明を始めた。


出席している者らはその内容に固唾を飲んだ。


「やッ、やめろ」

木下は立ち上がった。

「そんなことできるわけないだろう」

服部の提案は驚くべき内容だった。

しかし、木下の顔に怒りはなかった。


「失礼しました」

服部はゆっくと座った。


その後も会議は続いたが、

木下を納得させるものはなかった。

「服部、あの話は聞かなかったことにする。

後で部屋に来い」

そして、会議は終了した。





社長室に呼び出された服部は、椅子に座る木下の前に立った。


「あの話、進めろ。

但し、極秘だ。我が社の痕跡は残すな。

ばれたら一人で責任を取れ。

それで、いつになる」


「5年後です」


「よし5年後、徴兵制を復活させろ。

そうすれば、我が社は安泰だ」


服部は一礼して部屋を後にした。





調査部に戻った服部は、部員を集めた。

「例のプロジェクトを実行する。

各員は与党、右翼系メディアに働きかけてくれ」


部員は自分の席に戻り、パソコンを操作したり、電話をかけたりした。

主任の百地ももちは、服部と二人で部屋を出て行った。







「C国の脅威を考えると集団的自衛権は容認さざるえません」

与党若手国会議員の酒井は答えた。


「C国の脅威など実際にはありません。

国民を煽るのはやめてください」

野党第一党の女性議員小西は声を上げた。


「酒井議員、C国の脅威を具体的に説明してください」

CMの九条は討論の舵を取る。

九条は昼のワイドショーの人気CMだった。


「尖閣諸島付近の日本の領海に侵入する中国船を見れば明らかじゃないですか」

酒井は冷静に答えた。


「C国も自国の領土と主張しています。

外交で解決するべきです」

小西は最後に微笑んだ。


「外交には軍事的な背景も必要です」

酒井は反論する。


「それは外交の努力が足りないんです。

そんなに戦争をできる国にしたいんですか」

小西は呆れ顔をする。


「あなたこそ、国会議員のくせに

自国が外国に侵されている脅威を感じないんですか。

この領海付近を見てください」

酒井は右手を上げ、番組スタッフに合図する。


CM九条の横のモニターに沖縄付近の地図が現れる。

その地図には領海線が引かれ、

領海線ギリギリのところにC国の資源採掘基地が何機もあった。


「これがどこに問題があるんですか。

C国の領海内でしょう」

小西は首をひねる。


「この地下資源は日本の領海内に繋がっているんですよ。

C国は日本の地下資源を吸い取っているんです。

これが危機じゃなくなんですか」

酒井の声は少し怒気を含んでいた。


「憲法9条を守るべきです」

小西は無関係なことを言った。


カメラが九条に切り替わる。

「白熱した討論も途中ですか、放送時間となりました。

お二人ともお忙しい中ありがとうございました」

九条は番組を締めくくった。






翌週、政権支持率は上昇した。

服部のプロジェクトの効果が出始めていた。

先の討論番組も関連会社がスポンサーになっていた。

与党若手の最強の論客と呼ばれる酒井と

人気があるが感情的になり易い小西をブッキングさせたのだった。

さらに小西が感情的になったところで番組を終わらせる手の込みようだった。


また、ネットのある意見が異様に盛り上がった。

「拉致被害者は憲法9条の犠牲である」と。

本来は軍隊を使い、犠牲者が出たとしても、奪還に向かうべきだと。





こうして国民は集団的自衛権を容認するようになった。

また、防衛費をGDPの3%にすべきだという意見が

国会議員やメディアに漂うようになった。






社長の木下は服部を社長室に呼んだ。

「どういうことだ」

木下は怒気を上げた。

「確かに防衛費は増えそうだ。

だが、徴兵制はどうした。

徴兵制が採用されれば、我が社の銃を国民の全成人に配給できる。

計画は失敗か」


服部は何も答えなかった。

ただ頭を下げ、木下の叱責を受けていた。


後編に続く。

長くなってしまったので、前編、後編の2編にします!

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