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第②部 始動編
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小次郎が安住の地を得てから二年ばかりが過ぎ去った。二年もすればすっかり大きくなる・・というのが猫社会の相場だ。小次郎の場合は雄・・いや、人間語を話す男子だからそういうことはないのだが、雌だと二齢ぐらいで子供を妊娠することだって野良の場合、アリなのである。そんなことで小次郎は半年ほどもするとスクスクと成長し、すっかり青年猫に育っていた。なかなかのイケメンならぬイケ猫で、近所の雌猫をぞっこんにさせたりもした。むろん、普通の猫とは一線を画す小次郎は、人間学の勉学に勤しむ毎日だった。
「お前、この頃、すっかり男前になったな…」
里山が日曜の朝、応接セットのソファーで小次郎を両手で抱きながら囁いた。
『嫌ですよご主人、くすぐったいから下ろして下さい』
小次郎は辺りに沙希代の姿がないことを確認したあと、人間語で小さく言った。
「あっ! すまん、すまん。ついな…」
里山はバツ悪そうに小次郎をソファーへ下ろした。
その日の昼下がり、縁側の廊下に出た小次郎はすっかりいい気分でウトウトし始めた。辺りは春の陽気である。昼から里山と沙希代は連れ立って出かけたから、誰もいなかった。
「こんちわぁ~~、三河屋で~す! 洗濯ものをお届けに参りましたぁ~。お留守ですかぁ~~!! 日曜だから、いなさると思ったんだが…。仕方ねぇな、ここへ置いとくか」
突然、玄関で人の大きな声がし、小次郎は眠りばなを叩き起こされた。聞き覚えがある声だった。