軋響
ポケットの中に手を入れてみると、何か応えがあった。いつものようにどこかのレシートかなと思って見てみるとシワシワになったメモ書きが出てきた。見たところ洗濯にかけられているようではない。見当がつかないまま中を開いてみると、丸い小さい優しい字で、階段下のソファにて。とあった。焦燥に駆られる感があった。大事なものが崩れ落ちている音がした。仕事が残ってはいたが、自然とそっちの方へ向かっていた。次第に歩が早まっていた。
ついてみると、そこには何もなかった。意外にも空間は広く、3人がけのソファが2台、テーブルに向かい合って置いてあった。何も、誰もいないことを確認できて僕はホッとした。そのままソファに座ってみることにした。
深く沈んだ。軋む音も懐かしく匂った。油断した。
女と僕は互いに恋人がいた。それでも互いに奥で繋がっていた。僕は顔以外はスペックが高い自認はあった。それでも、おそらく、僕も女も互いに好意があった訳ではなかったと思う。何しろ体の相性が極めてよかった。互いに互いの恋人と旅行に行ったり、ご飯を食べたり、いいことしたりした話を持ち寄って、それも含めて前戯みたいになってた。
女は魔性だった。これは当時からわかっていたことだが、僕はこの女しかいなかったが、女は何人もいた。今のところ僕が最長だとか、他の男がどうとかの話もしていた。僕たちは会うと毎回する関係だった。合目的的な関係を旨としていたのであまり前段階の飲みとか、お出かけは簡素だった。世の中は僕たちのことをセフレとか、都合のいい関係とかいうのだろう。世間が名づけようと振りかぶる単語は全てすでに肯定されていた。あえて半年間消息を途絶えさせられたり、待ち合わせ場所に友達を送り込まれたりした。意味わかんないけどいつも新しい世界に導いてくれるような高揚感があった。女の顔は喜怒哀楽どんな顔をしても色気があった。別に美人ではなかったし可愛いわけでもなかった。ただ、顔が小さくて、目が顔に占める割合が高かった。目が澄んでいて声が高かった。いつも外では気丈に振る舞っていた。でも僕といる時は泣いたり、悪口が滝のように出てきたり、とにかく汚い言葉を大きめの紙に整列させて書いてたり、情緒がおかしくなったりしていた。
ある日、綺麗な夜を過ごした。今考えてみると、やけに綺麗だった。
それから、連絡が来なくなった。連絡が取れなくなったのではなく、あちらも、こちらも、連絡しなかった。
魅力的な日々だった。だからこそ今になってこんな形で思い出したんだろう。メモに目をやると、見覚えがあった。




