第4話 っ!
グレイは魔獣を倒すと出現した扉を押し開けて先へと進んだ。
「お帰りなさい」
扉を開けた先にいたのはステージ上で実技試験のことについて話していた教員だった。
「特待生進級おめでとうございます」
その教員の口から出た言葉は意外なもので、グレイたちにとっては衝撃的なものだった。
「特待生進級って……」
「そのままの意味ですよ。エクストラステージをクリアしたのは今のところグレイさんとフィオナさんだけですから」
「本当ですか!」
「ええ、ですが試験はまだ数時間は続くので自由に動いてもらって構いませんよ」
「なるほど。あのずっと気になってたんですけどあなたは?」
グレイは目の前にいる男性に向かって聞いた。すると彼は目を見開き紳士的なお辞儀をする。
「おっと、これは失礼。申し遅れました。
私、セツシート大学理事長のセイラス・パドリウスと申します」
この人、理事長だったのか。
「では私について来てください」
優しさが溢れる笑顔に惹かれるようにして後ろをついて行く。
「やっぱり……」
「グレイさんとフィオナさんの仮説は素晴らしいものでしたよ」
理事長が通った空間というのは真ん中に大きな四角形がある部屋で、それを囲むように何人もの人たちが並んでいた。
ガラスのようなもので出来た四角形の中にはジオラマのように広がる木々がある。あそこの中に今まで入っていたなんて、想像もつかない。
「これがグレイさん達がいた試験会場で魔獣を操っていた部屋です」
やはりグレイたちの立てた仮説は正しかったようだった。その後、少し歩くと昨日グレイたちが集合していた講堂まで戻って来た。
「十六時ごろにまた帰って来られるのであれば学校外に出ても構いませんので。有意義なお時間をお過ごしください」
理事長はグレイたちを講堂まで案内するとまた来た道を戻っていった。
「理事長も大変なんだな」
忙しそうにしている理事長を見て出て来た言葉はそれだった。
「それでは合格発表を行います」
セツシート大学の入試結果はまさかの実技試験終了後の一時間後だった。実技試験は常に人が採点をし続けているからその日のうちに結果が分かるのだろう。
「何だか不思議な気分ですね」
「そうだな」
周りの人は自分が合格したか、していないかが分からないためドキドキしているように見える。だが、グレイたちはもうすでに理事長から入試結果を知らされていた。
前にある四つの大きなスクリーンに合格者の番号が映し出された。
「私たちの他に実技試験、剣技部門でもう一人特待生がいるみたいですね」
「本当だ」
合格に喜んでいるものや悔し涙を飲む人たちがいる中でグレイたちはそんなことを呑気に話していた。特待生がグレイたち以外にいるとなればよっぽど今日のために努力をしてきたことだろう。
魔法部門の場合は規格外の大きさの魔獣を倒すことだった。だから、おそらく剣技部門も同じくらい大きな課題を達成しなければいけなかったんだろう。
「では、お気をつけてお帰りください」
理事長の言葉と同時に講堂からぞろぞろと人が出ていった。グレイとフィオナもそれに続いて講堂を出た。
「じゃあ家に帰ろうか」
「そうですね」
グレイたちは馬車に再び乗り込んで合格の報告をしに家に帰った。
「なんだか、懐かしいですね」
「そうだな」
たったの四日間しか経っていないのに、グレイたちはそう感じた。家に着いたグレイとフィオナはゆっくりと家のドアを開ける。
「グレイ、フィオナ!お帰りなさい!」
家に帰るや否や真っ先に出迎えてくれたのはアーシャだった。
「もう夕食の時間だから早く着替えておいで」
アーシャに言われてグレイたち共に部屋で着替えてから一階に戻る。
「試験、どうだったの?」
食卓につくとアーシャが目をきらきらさせながら興味津々に聞いて来た。ナックルは表情を強張らせて俺たちの方を見つめている。
「合格しましたよ。フィオナも」
アーシャとナックルは安心したような表情をした。
「それも普通の合格じゃなくて特待生でですよ」
「本当かっ!?」
グレイに付け足すように言ったフィオナの言葉にナックルが椅子から勢いよく立って聞いた。声も裏返っていたためよほど、特待生になったのが衝撃だったのだろう。
アーシャに関しては口元を押さえて身動き一つ取れなくなっていた。
「やっぱりお前たちはすごいな」
半分泣きそうな目をしているナックルはそう言って椅子に再び座る。なぜ自分の両親が特待生を取ったことに対してこんなに喜んでいるのか分からなかったグレイは遠慮なく二人に質問した。
「特待生ってそんなにすごいことですか?」
「すごいも何も特待生が出ない年だってあるんだぞ。もちろん今回みたいに二人くらい出る時だってある」
となると、三人の特待生が出てきた今年は異例の事態なんじゃないか?
「そんなにすごいことだったんですか。でも今年の特待生、三人ですよ」
「そう、だったのか……。今年は優秀な人が多いな」
ナックルは冷静を装いながら言ったが、表情の裏には異例の事態に驚きを隠せていない様子だった。その後、一旦息を整えてからナックルはねぎらいの言葉をかける。
「グレイフィオナ、本当におめでとう」
「私からもおめでとう」
ナックルとアーシャからのお祝いの言葉を聞いてグレイたちはお礼をした。
「フィオナ!もう時間が……」
「分かってますけど兄さんだって……」
四月某日。
制服の採寸も終わり晴れて楽しい学園生活だ、とはいかなかった。二人はなんと制服を着ることができなかったのだ。
フィオナはともかく、グレイに関しては誤算があった。前世では何百回と制服を着てきたグレイは愛する妹に制服の着方を教える気でいた。
なのに、届いた制服がなんとブレザーだったのだ。前世では学ラン、今はブレザー。ネクタイを結んだことがなかったせいで、グレイは普段の倍以上制服を着るのに手間をとっている。
「馬車の人が待ってるから早く!」
下でアーシャが大きな声でグレイたちを呼ぶ。制服は馬車の人たちが渡して来たがその場で着なければいけないらしい。寸法ミスなどをいち早く知るためだそうだ。
「よし、やっと出来た」
「私もやっと終わりました」
グレイの来ているブレザーは黒寄りの紺色の上着に黒のズボン。そこに赤のネクタイを締めているといった感じだ。
フィオナの場合はグレイと同じような黒寄りの紺色の上着に黒色のスカート。そこに赤色のリボンをつけている。二人とも金色に光る特待生のバッジを胸に輝かせながら玄関へと向かう。
「荷物は持ったか?」
「はい、持ちましたよ」
「なら急ごう」
荷物は全て俺の場合、魔力空間に詰め込んである。フィオナも手ぶらなので恐らくグレイと同じだろう。
「すみません、遅れてしまって……」
「いえいえ、こういうこと新入生ならよくあるから大丈夫だ」
馬車の中で待っていた人はそう言った。
「じゃあ掴まっておいてくれないか?」
「え?」
さらに続けて馬車の中にいる人が言った瞬間、馬車はガタガタと大きな揺れと共に急発進した。窓の外を見てみると新幹線のような速さで景色が流れていく。
「さて着きましたよ」
馬車の中の人が言われて外を見てみるとそこはもうセツシート大学だった。前は一日とかかかっていたのに今は十秒くらいじゃ無いか。
「どういう原理なんですか?」
「そりゃあ言えないな」
馬車の中の人はそう言ってフィオナの質問を断って馬車を降りていった。よっぽど大事で外部に言えないほどの情報なのだろうか。
「簡単に言うと魔力で馬車を押してるんですよ」
外からグレイの質問に答えたのは理事長だった。
「じゃあ、ジェット噴射みたいな感じですか」
「ジェット……? 何かはよく分かりませんがおそらく合ってますよ。まあグレイさんとフィオナさん。とりあえずこちらへ」
グレイたちは理事長の後ろを歩いていった。理事長に案内されるがままにグレイたちは小さな部屋へ入っていく。
「これを入学前に決めてもらいたいんです」
先に着席すると理事長は一枚の紙を渡して来た。
「これは?」
「セツシート大学は寮生活か、自宅からの登校がルールなんです。しかしグレイさんたちの場合家も少し遠く、寮生活というのも良い待遇とは言えませんので。そういう方への家のリストです」
「そういうことですか」
目の前にある机に紙を置いてフィオナと一緒に見てみる。写真付きで候補の家が記してあるが正直どれもいい感じだ。一軒家のようなものもあれば屋敷のように大きなものまで揃っている。
「時間があまり無いので出来るだけ早く提出して下さい」
「「分かりました」」
二人声を合わせると理事長室を後にした。
「とは言ったけどなー」
「全部いい場所過ぎて決められないですね」
一応候補である家の五箇所は全て回ったが決めることは出来ない。前世では出来なかった一軒家での一人暮らしもしてみたい。だがせっかくの異世界なんだから大きな屋敷に住みたいという意思もある。
「どうせ決まりませんし昔からやってたあれで決めましょうか」
「昔からやってたって……」
「覚えてませんか?」
「い、いや覚えているよ」
そんなわけないぞ。全くもってグレイは覚えていないどころか、まず知らない。
この世界でのグレイの記憶は大体半年前からしか無いからな。体で覚えていることは出来るようだが。
「せーのっ!」
フィオナは道端に落ちていた石を魔力でパキッと割った。
「うーんと三、四、五……八だから三番ですね」
地面に転がった石の破片の数を数えていたのだろう。フィオナが言っていた三番の家に俺は目を落とした。
「これか」
三番目の写真へと目を落とす。その写真にはまるで富豪が住むような屋敷が写されていた。




