第42話 どこか変?
今日も長い学校のテストの終わりを表すチャイムが鳴る。
「期末どうだった?」
「うーん、まあまあかな」
「マジかよ、俺は全然だ」
終礼が終わると杉見たちのグループと共に帰路へ着く。たまに入る生徒会の仕事はあるが、今日は休みのため一緒に帰れる日だ。
「神谷ー置いてっちまうぞ!」
「あぁ……今行くよ」
現在、学校では期末テスト中というのもあって持ち物はほとんど無い。机の上にある文房具をカバンの中に押し込み、小走りで教室を出た。
「海斗くん、また明日ね」
「うん、また明日。さよなら目白」
廊下で声をかけられたのは、神谷の彼女であり生徒会長を務めている目白結衣だ。少しだけ挨拶を交わし手を振って神谷は杉見たちの待っている玄関へ急ぐ。
数週間後、期末テストも終わり学期末ということで生徒会の仕事は以前よりも忙しくなった。ダンボールに今学期の書類を詰めてはまとめて、倉庫まで持っていく。神谷はそんなかなりの重労働をしていた。
「ふーっ。これくらいかな」
額の汗を手で拭きながら倉庫の中でそう言った。今はもう七月で気温もかなり上がって来ている。
「海斗くん、今日は一緒に帰ろっ!」
生徒会室に戻ると残っていたのはもう目白と神谷の二人だけだった。扉を開けると身支度を済ませた目白に言われ、神谷もすぐに荷物を持つ。
「うわぁー、傘持って来てないの。海斗くん持ってる?」
「あいにく、持ち合わせてないですね」
「じゃあ今日は貸し出し傘使うしか無いわね」
靴箱横にある傘立てに並ぶ大量の傘。学校側が用意してくれた傘だが、これも実は生徒会のおかげだったりする。生徒会が教員団に話をつけて、学校の玄関先に置いてもらった。
「一本しかないわね」
大きめのビニール傘を目白は持ってきた。
「こんなにくっついて帰るの初めてかもね」
目白との距離はほとんどゼロ距離だ。時々お互いの肩がぶつかり、ビクッとする事があり神谷としてはすごく気まずい。
雨が降り続ける中、交差点で信号を待っているとトラックが通ってきた。だがそのトラックは他の車とは全く違う動きをしながら走ってきた。
「目白、あのトラック変じゃ無いか?」
目を凝らしてながら目白にも言ってみる。
「確かにおかしいわね……って、こっちに来てない⁉︎」
真っ直ぐにスピードを止める事なく、トラックはこちら側に来た。身の危険を感じた二人はすぐに後ろへ下がる。その後もトラックはスピードを止める事なく横断歩道へ突っ込んだ。
「早く通報を……」
そう言って神谷はポケットに入っているスマホを取り出して電話をした。
「早く起きるんだ」
急に声が聞こえたかと思うと、頬をパチパチと叩かれた。目を覚まして辺りを見回してみると、真っ暗な空間で方向感覚を失いそうになってしまった。それでも方向感覚を失わずに前後を見分けられたのは前に人が立っていたからだ。
「こんな所で生活してないでさっさと現実に戻ってくるんだ」
「何を言ってるんです? 俺は今、十分過ぎるほど幸せな暮らしをしているんですよ」
暗闇で顔はよく見えなかったが、声の質感から察するに自分よりも年上なのは明確だった。そのため、やや敬語気味な喋り方をして答える。
「これはマズい……」
「どうする?」
「私がやるわ」
目の前にいるのが一人だと思っていたがそれは間違いだったらしい。神谷の前にいる人の後ろから黄色いクリーム色の髪をしたポニーテールの子が出てきた。小走りに自分の方へやってきた子にいきなり頭を掴まれる。
「っ、何するんだ」
自分の頭を掴んでいる手を両手で押し退けようともがくも、びくともしない。
「うあぁぁぁ!」
生まれて初めて味わった痛みが神谷を襲う。頭が潰れそうなほど痛く、我慢が出来ないほど酷く痛む。
「あぁっ!」
気が付くとそこは自室のベッドの上だった。自分の頭を押さえ先ほどまでの痛みがないことに違和感を覚える。
「夢か……」
布団を退けて床に足をつけた瞬間のこと。
——グレイ様、おはようございます
周りには誰もいないのにも関わらずそんな声が聞こえてきた。
「グレイ? 幻聴か……多分疲れてるんだな」
着替えをすぐに済ませて一階へと降りていく。テーブルの上にラップを掛けて置かれている朝食を再び温め直そうとした時。
——時間ギリギリですね
先ほどとは違う人の声が聞こえた。
「さっきから何なんだよ!」
自分以外、誰もいないはずの家で声が聞こえたために頭を抱えて叫ぶ。そんな時、目の前に煙のようにスッと女性が現れた。
「目白? その格好……」
無言のまま目白は神谷の方へと近づいてくる。彼女はいつもの学生服姿ではなく、変な格好をしていた。目白はそのまま近づいて神谷の頬は手を回すと、躊躇なくキスをする。
「目白……」
絶対に以前にキスなんかしたことはない。もちろん、目白ともしたことはないのに、なぜだろう。どこかでされたような記憶が……
「………はっ、そうだよ。俺は神を倒さないと」
この瞬間、グレイは全ての記憶を取り戻した。
「落ち着いてよく聞いて。脱出するには本来とは違う事実を変えること……」
「あ、ちょっ」
まるで今までが幻だったかのように目白は消えてしまった。
「本来と違う点? 杉見か……」
少しだけ考えてみたが、結論に辿り着くまでの時間はそう長くなかった。以前と今では杉見へと印象が天と地ほどの差になっている。
「問題はどう変えるかだよな」
あの杉見に体で挑んだところで結果は目に見えている。
「そう言えば魔力ってあるのか?」
以前までと全く同じ要領で水球を作り出そうとすると、しっかりと水の球が作られた。
「これを使うのはは気が引けるけど」
次の日、グレイはこの世界から脱出するため行動を起こす。
「杉見、言いたいことがあるからちょっと来てくれないか?」
登校時、いいところに杉見がいたので早速ここからの脱出準備に取り掛かる。事態は一刻を争うぐらいのレベルなのだ。
「なあ神谷。こんなところに来てどうするんだ?」
人気のない通路に杉見を呼び出した。最後には杉見の顔を見ないように下を俯いて言う。
「杉見、俺に夢を見せてくれてありがとう。水弾」
ブチュといつでもトラウマになりそうなレベルの音がして杉見は地面に血を撒き散らしながら倒れた。それと同時に目の前が真っ白に光り輝き始めた。




