局長との休日 〜心癒魔術師オルテンシアのトロイメライ〜
安息日の午後は、レゾヌマ局長のお家でゆっくりする。汽車に30分揺られて、アジュール駅で待ち合わせするのが、約束だ。
「ごきげんよう、レゾヌマ局長」
「ようこそ、オルテンシアさん」
手をつないで、昨日のことや、先週のお仕事についておしゃべりしていると、すぐにお家へ着く。レゾヌマ局長とだと、坂道や階段が苦にならない。
「オルテンシアさんに、早くお見せしたい物があるんですよ」
局長は、封印を解く魔法をかけて、書斎を隠し部屋へと切り替えた。パステルカラーの水晶や、ランタンで飾りつけられた、夢に現れそうな空間だった。
「さあ、こちらは何でしょう?」
局長が抱えていた物は、硝子の小箱。空と海が溶け合ったような青で、中が見えない。私は素直に、分かりませんと答えた。
「では、耳をすませてください」
局長は、小箱の側面に付いたぜんまいを巻いて、ふたを開けた。真珠を転がしたような音が、箱から聞こえてくる。
「心地良い音ですね」
そうでしょう、と局長は目を細めた。
「若い頃に、仕事道具として付き合ってきました。オルテンシアさん、音の心癒魔術はどなたに効果がありますか?」
「お子さん……でしょうか。ストレスを軽くして、また、悪夢から守ります」
局長が私の頭をそっと撫でた。
「よくできました。あの時は、小児心癒隊におりましたから。ちなみに最新の研究では、大人の『怒り』にも効くと分かっているんですよ」
「でしたら、ベカン隊長にかけて差し上げたいです。いつも何かにイライラされていますし、あっ!」
急に抱き寄せられたので、大きな声を出してしまった。
「豆知識を教えた私に非がありますが……。貴女のお優しいところは素敵です。しかし、せっかく二人でいますのに、別の方の、それもまた男性の名前をお話に出されるとは」
怒っていらっしゃるの? 局長の瞳をのぞき込むと、唇を寄せられた。
そばにあるはずのオルゴールが、遠く聞こえる。
「ふたつ、お願いがあります」
局長の温かい手が、私の頬を繰り返しなぞった。
「二人だけの時は、私だけを見ていてください」
私の耳元に、切なそうな吐息がかかる。
「レゾヌマ局長……?」
「古い肩書きです」
繊細な音楽に、チェロのような声が重なる。
「レゾンと呼んでください。それがもうひとつのお願いです」
戸惑いながらお願いに応えたら、ご褒美に、と長い口づけをくださった。
甘い音は、まだ、止みそうにない。
あとがき(めいたもの)
オルゴールを聞いていると、嬰児に戻ったような気持ちになります。邪な考えが、消え去ってゆくのです。曲はトロイメライか、乙女の祈りが好きです。ロマンチックおじさんです。




