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冷徹非情な『氷の皇帝』を溶かせるのは、世界で私だけのようです  作者: 伝福 翠人


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芽生えた独占欲

「……ぁ……」


カイザーの腕の中で、私はかろうじて意識を保っていた。


全身の力が抜け落ち、金色の光の残滓が、まるで蛍のように私の周りを漂っては消えていく。


彼の、あの「氷」だったはずの瞳が、至近距離で私を捉えていた。


大きく見開かれた瞳。


そこに映っているのは、信じられないものへの「驚愕」と、理解を超えた現象に対する「混乱」。


そして―――私という存在そのものへの、熱を帯びた「何か」。


「……貴様は……」


彼が、かすれた声で何かを言いかけた、その時。


「陛下! ご無事ですか!」


「龍脈の暴走が……鎮圧されている!? ばかな!」


遅れて、恐怖から立ち直った護衛の騎士たちが、慌てて馬で駆け寄ってくる。


彼らは、無傷で(むしろ、魔力に満たされて)立っているカイザーと、その腕の中でぐったりとしている私を見て、何が起こったのか理解できず立ち尽くした。


カイザーは、騎士たちを一瞥した。


その、ほんの一瞬。


彼の瞳に、凍てつくような、絶対的な「独占欲」の色が浮かんだのを、私は間近で見てしまった。


(――俺のものを、見るな)


声には出していない。


だが、その視線は、雄の龍が自らの宝を守るかのように、明確にそう語っていた。


次の瞬間、カイザーは、まるで私が羽毛か何かであるかのように、その屈強な腕で私を横抱きに抱え上げた。


「ひゃっ……!?」


「……!」


騎士たちが、息を呑む。


あの、アストリアの「道具」を?


あの、カイザー陛下が、自ら?


「……戻るぞ」


彼は、それだけを短く告げた。


だが、その声には、もう以前の「氷」の冷たさはなかった。


代わりに、まるで煮えたぎるマグマを無理やり押し込めたような、熱い「圧」がこもっていた。


彼は、私を抱き上げたまま、悠然と自らの愛馬に跨る。


私は、彼の胸に顔を押し付ける形になった。


トクン、トクン、と。


私自身のものよりも強く、速い心臓の音が、硬い胸筋を通して伝わってくる。


(熱い……)


この人は、氷の皇帝などではなかった。


彼は、その氷の下に、暴走する龍脈そのものを飼っていたのだ。


そして今、私の力が、その氷を――溶かしてしまった。



城に戻ってからの扱いは、まさに天と地がひっくり返るようだった。


私は、あの「道具」用の簡素な部屋ではなく、城で最も豪奢な、本来の「皇后」が使うべき居住区へと運ばれた。


アストリアの埃っぽい自室など、物置にすら見えてしまう。


「皇后陛下、お召し替えを」


「医師だ! 陛下のお体に障りがあってはならん!」


昨日まで私を「存在しないもの」として扱っていた侍女や側仕えたちが、今は恐怖に顔を引きつらせながら、私の世話を焼いている。


彼女たちは、が(・)怖いのではない。


へ(・)の(・)扱いを一つ間違えれば、あのカイザーに何をされるか分からない。その恐怖だ。


そして、カイザー。


彼は、あの日以来、私の前に頻繁に姿を見せるようになった。


「……何をしている」


「……っ! 陛下」


夜、侍女たちが下がった後、彼は何の予告もなく、私の寝室に現れた。


護衛も連れず、ただ一人で。


私は、寝間着ネグリジェ姿のまま、ベッドの上で飛び上がる。


彼は、私を「契約結婚の道具」と呼んだはずだ。


それなのに、こんな、無防備な夜に、彼は一体何をしに……?


だが、彼は私に近づこうとはしなかった。


ただ、部屋の入り口に立ったまま、じっと、私を見ている。


あの「大地の裂け目」で見たのと同じ、熱を帯びた、何かを探るような目で。


「……体は、どうだ」


「……はい。あの、お陰様で、もう……」


「そうか」


会話が、続かない。


彼は、なぜか居心地悪そうに、自分の首筋に手をやった。


あの「氷の皇帝」が、まるで、初めて異性の部屋を訪れた少年のような、ちぐはぐな態度を見せている。


(この人は、一体……)


私を「道具」と呼んでいた時の、あの絶対的な冷酷さの方が、まだ分かりやすかった。


今の彼は、私に何をしたいのか、彼自身も持て余しているように見える。


「……あの、陛下? 何か、ご用件で……」


「……いや」


彼は、私から目を逸らした。


そして、まるで自分に言い聞かせるように、低い声で呟いた。


「……貴様の力は、俺のものだ」


「え……?」


「あの力は、帝国を安定させる。……そうだ、それだけだ。それだけのはずだ」


彼は、何かを振り払うように踵を返し、嵐のように部屋から出て行った。


一人残された私は、訳が分からないまま、自分の胸を押さえた。


心臓が、あの時、彼の胸で聞いた音と同じくらい、速く、うるさく鳴っていた。


彼の「執着」は、日に日に隠しようもなくなっていった。


「これを身につけろ」


次の日、彼が持ってきたのは、深紅の宝石があしらわれた豪奢な首飾りだった。


「こっ、こんな、高価なもの……!」


「俺の『皇后』が、みすぼらしい格好をすることは許さん。それは『俺』の威信に関わる」


彼は、私に有無を言わさず、その冷たい宝石を私の首にかけた。


指先が、私のうなじに触れる。


「ひっ……!」


体が、ビクッと震えた。


その反応に、彼の指も、一瞬、止まった。


だが、彼は手を離さなかった。


それどころか、まるで私の反応を確かめるかのように、わざとゆっくりと、宝石の留め金をかけた。


その吐息が、耳にかかる。


「……いいか。お前は、もう『道具』ではない」


「……」


「お前は、の(・)も(・)の(・)だ」


彼は、私の耳元で、そう囁いた。


「この首輪・・は、その証だ。


他の誰にも、お前を渡さん」

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