表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷徹非情な『氷の皇帝』を溶かせるのは、世界で私だけのようです  作者: 伝福 翠人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/15

皇帝の試練

カイザーが、城の地下最奥にある巨大な鉄の扉に手をかける。


彼は私を扉の前に突き飛ばし、冷たく見下ろした。


「貴様の『価値』、ここで示せ。――生きたければな」


その言葉と同時に、世界が崩壊するような轟音と共に、扉が開かれた。


「―――っ!」


私は、声にならない悲鳴を上げた。


光だ。


いや、光というよりは、目に見えるほどの濃密な「魔力の奔流」そのものだった。


地下だというのに、まるで嵐の中心にいるかのようだった。部屋の中央には巨大な魔石のようなものが鎮座し、そこから青白い稲妻のような魔力が四方八方にほとばしっている。


ビリビリと、空気が泣いている。


第3章で帝都に来た時に感じた「肌を刺す圧」など、子供の遊びだった。


これは、純粋な「暴力」だ。


肌が焼ける。呼吸ができない。ここにいるだけで、存在そのものがすり潰されてしまいそうな、圧倒的な力の奔流。


これが、「龍脈の間」。


これが、カイザーが言っていた「龍脈の暴走」の源。


「何を突っ立っている」


カイザーが、私の背中を無慈悲に押した。


「ひっ……!」


よろめきながら、部屋の中央――魔力の嵐の中心へと数歩、足を踏み入れる。


熱い。痛い。


まるで、全身を無数の針で同時に突き刺されているような激痛が走った。


「ぐ……っ、ぁ……!」


立っていられない。


私はその場にうずくまる。


魔力ゼロの私にとって、この濃密すぎる魔力は「毒」だ。


アストリアの「魔力枯渇」に慣れた身には、あまりにも、あまりにも強すぎる。


「それだけか、アストリアの『道具』」


カイザーの声が、嵐の轟音の中から、不思議とクリアに聞こえた。


彼は、平然とした顔で部屋の入り口に佇んでいる。あの嵐の中心地が、彼にとっては日常なのだ。


(これが、皇帝の試練……)


痛い。苦しい。逃げ出したい。


死ぬ。


このままここにいたら、私は魔力に飲み込まれて、消し炭になってしまう。


(――生きたければな)


カイザーの言葉が、脳内で反響する。


(生きたい)


私は、決意した。


ここで役に立たなければ、私は殺される。


道具としてすら、扱ってもらえない。


故郷で「無能」として虐げられてきた日々が、フラッシュバックする。


(耐えるのは、慣れてる……!)


私は、リリアンの侮蔑にも、父の冷たい視線にも、侍女たちの嘲笑にも、十九年間、ずっと耐えてきた。


それに比べれば。


それに比べれば、こんな、ただの「痛み」など――!


私は、歯を食いしばった。


唇から血の味がしても、構わない。


「私は……っ、まだ、ここに、いる……!」


目を開けることすらできない。


全身が引き裂かれそうな激痛の中で、私はただひたすらに、耐えた。


「道具」としての価値を証明するために。


私が「私」として生き延びるために。


どれくらいの時間が経っただろう。


一秒が、一時間にも感じられる。


意識が遠のきかけた、その時だった。


ふと、カイザーの視線を感じた。


恐る恐る、嵐の中で目を開けると、カイザーが、そこに立っていた。


私を見ている。


(……あれ?)


さっきまでの、「道具の性能を試す」ような無機質な目ではない。


彼は、わずかに、本当にわずかに、眉をひそめていた。


それは「怒り」や「失望」とは違う。


もっと……何か、「信じられないもの」や、「理解できない現象」を目の当たりにしたかのような……そんな「疑念」の色。


彼は、私ではなく、私の「周囲」を見ている?


そしてまた、私を凝視する。


(な、なに……?)


私には、魔力の嵐が荒れ狂っているようにしか見えない。


この男は、一体何を見ているというの?


やがて、カイザーは、短く「そこまでだ」と告げた。


その声と同時に、私を苛んでいた魔力の圧力が、ふっと弱まった。


彼が、龍脈を制御したのだ。


私は、糸が切れた人形のように、その場に崩れ落ちた。


「はっ……はぁ……っ……」


全身が汗でびっしょり濡れ、呼吸が整わない。


生きている。


なんとか、生き延びた。


カイザーが、ゆっくりと私に歩み寄る。


そして、床に這いつくばる私を、冷たく見下ろした。


彼の瞳は、もう元通りの「氷の皇帝」のものに戻っていた。さっきの「疑念」は、私の見間違いだったのだろうか。


「……ほう。生きてはいるか」


彼は、まるで頑丈な玩具を試した後のように、そう言った。


「道具として、最低限の『耐久性』は、あるらしい」


「……っ」


「だが、これでは足りん。暴走は、こんなものではないからな」


彼は、私に背を向けた。


そして、決定事項を告げるように、低い声で言った。


「明日からは、城外の『暴走地帯』へ連れていく。


貴様の『価値』が本物かどうか、そこで見極めてやる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ