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冷徹非情な『氷の皇帝』を溶かせるのは、世界で私だけのようです  作者: 伝福 翠人


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氷の皇帝の告白

戦場を包み込んでいた金色の光が、まるで役目を終えたかのように、ゆっくりと、優しく、空気に溶けていく。


荒れ狂っていた二つの魔法は完全に沈黙し、世界はあるべき穏やかな魔力の循環を取り戻していた。


だが、その中心にいた私は、もう立っているのがやっとだった。


(……力が、抜けていく……)


カイザーの手を握ったまま、私は馬上でぐらりと傾いだ。


全身の血が、一気に引いていくような感覚。


十九年間、魔力ゼロとして生きてきた私の器に、あの「調律」の力はあまりにも大きすぎたのだ。


「―――エリアーナ!」


意識が遠のく直前、私を呼んだのは、もう「氷の皇帝」の声ではなかった。


焦燥と、これまで抑え込んでいた何か激しい感情をはらんだ、カイザー自身の声だった。


ガシッ、と。


馬から崩れ落ちそうになった私の体を、力強い腕が横から抱きとめる。


カイザーは、自らの馬から飛び移るようにして私の馬に乗り上げ、そのまま私を彼の胸の中に抱き込んだ。


「……っ、しっかりしろ! 目を開けろ、エリアーナ!」


「……へいか……」


「黙れ。喋るな」


彼の声が、震えている?


私は、力の入らない目で、彼を見上げた。


彼の、あの凍てついていた瞳が、今は激しく揺れていた。


私という「宝」が、今、目の前で壊れてしまうのではないかと恐れるかのように。


「……あ……」


私は、彼の胸の中で、微かに笑おうとした。


(あったかい……)


あの「大地の裂け目」で感じたのと同じ、彼の心臓の音。


この温もりの中でなら、もう、眠ってもいいかもしれない。


私は、そっと目を閉じた。


「エリアーナ!!」


彼の悲痛な叫び声が、遠くで聞こえた気がした。



私たちがいる場所を中心に、絶対的な静寂が戦場を支配していた。


両国の兵士たちは、ただ呆然と、世界の崩壊を止めた「聖女」と、彼女を必死に抱きしめる「皇帝」の姿を見つめている。


その、静寂の中で。


ひときわ甲高い、何かが「割れる」ような音が響いた。


「……あ……ああ……」


リリアンだった。


彼女は、軍馬の上で、自らの両手を見つめていた。


彼女の手から、あの純白の「聖魔法」のオーラが、砂のようにこぼれ落ち、消えていく。


「ち、違う……! 私の……私の『聖魔法』が……!」


彼女が聖杖を握りしめても、もう、何の力も発動しない。


「調律」によって世界の魔力循環が正常に戻った結果、彼女がアストリアの大地から「前借り」していた力の供給が、完全に断たれたのだ。


「聖女」の奇跡は、ただの「枯渇」を招く「バグ」にすぎなかった。


魔力ゼロ。


いや、今まで強大な力を持っていた分、その喪失感は、魔力ゼロ以下の絶望だ。


彼女は、ゆっくりと顔を上げた。


そして、見た。


カイザーの腕の中で、彼のすべてを懸けて守られている、の(・)姿を(・)。


「……う……そ……」


嫉妬も、憎悪も、もう、そこにはなかった。


ただ、理解を超えた現実を前にした、子供のような「絶望」だけがあった。


失敗作わたしが……聖女エリアーナに……?」


彼女が、人生のすべてを懸けて築き上げてきた「完璧な自分(聖女)」というアイデンティティ。


それが今、目の前で、音を立てて崩れ去っていく。


彼女が「失敗作」と見下し、虐げ、追放した姉こそが、真の「力」を持ち、すべてを手に入れていた。


「ああ……あ……あああああああああっ!!」


リリアンの絶叫が、静まり返った戦場に響き渡る。


それは「ざまぁ」などという生易しいものではない。


彼女の「世界」が終わった音だった。


彼女は、聖杖を取り落とし、そのまま馬から崩れ落ち、泥だらけの地上で、ただ泣き叫ぶことしかできなかった。


父であるアストリア国王もまた、その場で震えていた。


彼もまた、リリアンと同じ現実を突きつけられたのだ。


自らが「国の恥」として捨てた娘が、世界を救う「調律の聖女」であり、今や敵国の皇帝が命を懸けて愛する「唯一無二の存在」であったことを。


彼は、最強の切り札を、自らの手で敵国に差し出したのだ。


「……エリアーナ」


両軍が見守る中、カイザーが、私の名を呼んだ。


私は、彼の腕の中で、かろうじて薄目を開ける。


彼は、私を抱きしめたまま、ゆっくりと軍馬の上で立ち上がった。


まるで、世界中のすべての人間に、その「宝物」を見せつけるかのように。


彼の声が、魔力を含み、戦場全体に響き渡る。


「聞け、アストリアの王よ。そして、我がドラゴニアの民よ」


彼は、私をまっすぐに見つめた。


その瞳には、もう「疑念」も「執着」も「戸惑い」もない。


ただ、溢れ出すほどの、どうしようもない「愛しさ」だけが、そこにあった。


「氷」が完全に溶けた、マグマのような、情熱が。


「この者は、『道具』などではない」


彼は、世界に向かって、そして、私一人の魂に向かって、宣告した。


「この者は、俺の『唯一無二の光』だ」


彼は、そっと、私の額に自らの額を押し付けた。


両軍の兵士たちが、アストリアの王が、そして崩れ落ちたリリアンが見ている、その前で。


皇帝は、ただ一人の女に、そのすべてを捧げた。


「―――お前を、愛している」

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