表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷徹非情な『氷の皇帝』を溶かせるのは、世界で私だけのようです  作者: 伝福 翠人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/15

調律の聖女

「ひっ……!? い、嫌……! 来ないで……!」


リリアンが、聖女にあるまじき甲高い悲鳴を上げた。


彼女が生み出した純白の「虚無の渦」は、もはや彼女の制御を離れ、生みの親である彼女自身を「燃料」として喰らおうと牙をむいていた。


同時に、カイザーの黒い龍脈も、アストリアの聖魔法に刺激され、暴走の寸前でせめぎ合っている。


「ぐ……っ!」


カイザーは、自らの剣を大地に突き立て、荒れ狂う自らの力と必死に対峙していた。


戦場が、阿鼻叫喚に包まれる。


聖魔法はアストリア兵から魔力を奪い、龍脈魔法は帝国兵を無差別に攻撃する。


白と黒の嵐が混ざり合い、世界そのものが「無」に帰そうとしている。


(どうしよう……!)


私は、カイザーのすぐ後ろの軍馬の上で、ただ震えていることしかできなかった。


あまりにも巨大すぎる、二つの力の衝突。


「無能」の私に、何ができる?


「大地の裂け目」での覚醒は、ただの偶然だったのではないか?


(怖い)


あの金色の力を、もう一度使える保証なんてない。


下手に手を出せば、私もあのリリアンのように、力に飲み込まれて消滅してしまうかもしれない。


私は、また「失敗作」に戻るのが怖かった。


その時だった。


「―――エリアーナ!」


カイザーが、私を呼んだ。


龍脈の暴走と戦いながら、血を吐くような苦悶の表情で、私を振り返った。


「お前は、何だ」


「え……?」


「あの『大地の裂け目』で、お前が使った力。


あれは、アストリアの聖魔法か? それとも、俺と同じ龍脈の力か?」


彼は、問いかけていた。


私という「道具」の、真の「性能」を。


私という「所有物」の、本当の「価値」を。


私は、首を振ることしかできなかった。


「わ、かりません……! あれは、ただ、温かくて……」


「そうか」


カイザーは、私の答えを聞くと、なぜか、ふっと笑った。


血にまみれた唇で、あの「氷の皇帝」が、初めて、心の底から。


彼は、大地に突き立てた剣を引き抜いた。


そして、暴走しかけていた自らの黒い龍のオーラを、その剣先に集束させる。


「ならば、もう『道具』ではないな」


彼は、その剣先を、に(・)け(・)た(・)。


だが、そこに殺意はなかった。


「陛下!? なにを……!」


彼は、私に歩み寄る。


一歩、また一歩と。


荒れ狂う白と黒の嵐の中、彼と私の周りだけ、時間が止まったようだった。


彼は、私の目の前で馬を止め、私を見上げた。


その瞳には、もう「疑念」も「執着」もなかった。


そこにあるのは、絶対的な「信頼」。


私という存在そのものへの、揺るぎない確信だった。


「お前が『聖』であろうと『龍』であろうと、どちらでも構わん。


俺は、あの時、お前に救われた。


―――お前が、お前であると信じる」


彼は、私に向かって、で(・)は(・)な(・)く(・)、自らの「手」を差し出した。


その手には、制御された黒龍のオーラが、静かに渦巻いていた。


「行け、エリアーナ。


お前の信じるままに、その力を解き放て。


俺の龍脈は、お前と共にある」


(……ああ)


涙が、溢れた。


「無能」でも、「失敗作」でも、「道具」でも、「所有物」でもない。


彼は、初めて私を、「エリアーナ」と呼んでくれた。


私を、信じてくれた。


私は、もう迷わなかった。


私は、震える手で、カイザーが差し出した「龍の力」を――その手を、強く握りしめた。


ドクンッ!!


カイザーの黒い龍脈が、私の中に流れ込んでくる。


それは、もう「毒」ではなかった。


「大地の裂け目」で感じたのと同じ、カイザーの、あの力強い心音。


私を生かそうとする、熱い生命力そのものだった。


そして同時に、私は、もう片方の手を、暴走する「虚無の渦」――リリアンが放つ、白い嵐へと向けた。


(来るな!)


私の中に、もう一つの声が響く。


アストリアの聖魔法が、龍の力を拒絶しようとする。


光と闇が、私の体内で、再び激突しようとした。


(――違う!)


私は、心の中で叫んだ。


アストリアで私を虐げたのは、父やリリアンだ。「聖魔法」そのものではない。


帝国で私を苦しめたのは、龍脈の「暴走」だ。「龍の力」そのものではない。


光も、闇も。


「聖」も、「龍」も。


どちらも、この世界に必要な力だ。


どちらか一つだけが「正しい」なんて、そんなはずがない!


(私が、繋いでみせる!)


私の中に眠っていた、あの金色の「陽だまり」が、応えた。


それは、アストリアの「聖」の力でも、ドラゴニアの「龍」の力でもない。


その二つを、赤子をあやす母のように、優しく包み込み、受け入れる――


第三の力。


「―――『調律』しなさい!!」


私は、天に向かって叫んだ。


金色の光が、私を中心に、爆発した。


それは、嵐を吹き飛ばすような暴力的な光ではない。


まるで、凍てついた大地に、春の陽光が降り注ぐかのように。


優しく、どこまでも優しく、戦場すべてを包み込んでいく。


リリアンの暴走した「聖魔法」は、その金色の光に触れると、まるで母親に叱られた子供のように、その荒々しさを鎮めていった。


カイザーの荒ぶる「龍脈魔法」も、陽だまりの中でくつろぐ龍のように、穏やかな鼓動を取り戻していく。


白と黒の嵐が、止んだ。


金色の光の中で、二つの力は、対立することをやめた。


聖魔法は、枯渇したアストリアの大地を「癒し」始め、龍脈魔法は、その癒しを助ける「活力」として、穏やかに流れ始めた。


世界の「魔力循環」が、そのあるべき姿を取り戻していく。


戦場にいた両国の兵士たちが、武器を取り落とし、呆然と、その光景を見上げていた。


父も、そして、暴走から救われたリリアンも。


誰もが、金色の光の中心で、カイザーの龍の力を受けながら静かに佇む私――「調律の聖女」の姿を、ただ見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ