表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冷徹非情な『氷の皇帝』を溶かせるのは、世界で私だけのようです  作者: 伝福 翠人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

二つの暴走

「―――拒否する」


カイザーが放ったその一言は、静かだったが、玉座の間に集う全ての者の耳に、雷鳴のように突き刺さった。


父、アストリア国王の顔が、驚愕から屈辱へ、そして燃え盛る怒りへと瞬時に変わっていく。


「……き、貴様……っ! 今、なんと!」


「聞こえなかったか、アストリアの王よ」


カイザーは、を(・)庇うように、玉座の前へと一歩踏み出した。


その背中は、私一人が隠れてしまえるほど大きく、黒龍のオーラが静かに立ち昇っている。


「俺の皇后ものを、貴様ら(・・)に(・)引き渡すことは、拒否する(・)、と(・)言った」


「き、貴様ごとき蛮族の王が……! このアストリアの『聖女』の慈悲を無にするか!」


「慈悲?」


カイザーは、心底おかしそうに、鼻で笑った。


「一度捨てた道具を、今度は『魔女』と呼んで殺しに来ることの、どこが慈悲だ。それはただの、貴様らの浅ましい『欲望』と『嫉妬』だろう」


「なっ……!」


父も、リリアンも、言葉に詰まる。


カイザーは、全てを、見抜いていた。


「これ以上、俺の玉座の間を汚すな。


―――失せろ。アストリアへ、帰るがいい」


それは、最後通牒だった。


父は、屈辱に顔を真っ赤に染め、剣の柄を握りしめ、わなわなと震えている。


だが、リリアンの瞳は、違った。


彼女は、カイザーがを(・)「俺の皇后もの」と呼んで庇ったことに対し、嫉妬の炎で我を忘れていた。


「……許さない」


リリアンが、地を這うような声で呟いた。


失敗作エリアーナごときが、聖女わたしより……! 皇帝カイザーに選ばれるなど……!」


彼女の体から、純白のオーラが溢れ出す。


「アストリアの聖魔法こそが、唯一無二!


魔女エリアーナも、蛮族カイザーも、ここで『浄化』してさしあげますわ!」


リリアンが、この玉座の間で、カイザーに攻撃魔法を放とうとしたのだ。


「―――愚かな」


カイザーの目が、絶対零度の「氷」に戻る。


彼が手を振り上げた瞬間、玉座の間にいた帝国の近衛騎士たちが、一斉にアストリア訪問団を取り囲んだ。


「きゃあっ!?」


「な、何をする! 無礼であろう!」


父や大臣たちの抗議も虚しく、彼らは武器を取り上げられ、あっという間に制圧されてしまった。


リリアンも、聖魔法を発動する寸前で、魔力を封じる枷をはめられる。


「……これが、回答だ」


カイザーは、床に膝をつかされた父を見下ろし、宣告した。


「アストリア魔法王国は、我がドラゴニア帝国に対し、宣戦を布告したものとみなす。


『聖女』を人質として預かり、残りの者は国へ帰れ。


―――戦場いくさばで、決着をつけようぞ」



それから、瞬く間に数日が過ぎた。


帝都は、いくさの準備で、あの「龍脈の間」のように、荒々しい活気に満ちていた。


リリアンは、城の最上階にある塔に幽閉された。


父や大臣たちは、カイザーの宣告通り、屈辱にまみれてアストリアへと送り返された。


彼らが、このまま黙っているはずがない。


アストリアの全軍を率いて、国境地帯に集結しているとの報せが、次々と帝都に届いていた。


そして、私は。


「……なぜ、わたくしまで……」


「言ったはずだ。お前は俺のものだ、と」


私は、カイザーと共に、軍馬に乗っていた。


場所は、両国の国境地帯。


帝国の黒龍の軍旗と、アストリアの聖なる紋章の軍旗が、荒野を挟んで睨み合っている、その最前線だった。


カイザーは、私を帝都の安全な城に置いていくことを、拒否した。


「お前の『力』は、戦場ここでこそ必要になる」


彼はそう言った。


だが、本当の理由は違うと、私には分かっていた。


彼は、私という「宝物」を、自分の目の届かない場所に置いておくことが、我慢ならないのだ。


私は、カイザーのすぐ後ろで、彼の巨大な黒龍の紋章が染め抜かれた旗を、震えながら見上げていた。


「―――来たか」


カイザーが、地平線の向こうを睨みつける。


アストリアの軍勢が、動いた。


その先頭に立つのは――幽閉されていたはずのリリアンだった。


どうやら、父が、リリアンと交換する人質として、帝国の貴族を捕らえていたらしい。


リリアンは、軍馬の上で、純白の「聖女」の衣をまとっていた。


その手には、アストリア王家に伝わる「聖杖」が握られている。


「カイザー陛下! そして、魔女エリアーナ!」


リリアンの声が、魔力で増幅され、戦場に響き渡る。


「今こそ、神の御名において、その邪悪なる龍の力と、魔女の魂を『浄化』します!」


彼女が聖杖を天に掲げると、空が、アストリア側の空だけが、白く輝き始めた。


純粋な、だが、あまりにも強すぎる「聖魔法」の奔流だ。


「……フン。小細工を」


カイザーも、馬上で剣を抜き放つ。


「全軍、構えよ! 龍脈の力、解放!」


カイザーの号令と共に、帝国側の大地が呼応する。


黒く、荒々しい「龍脈魔法」のオーラが、大地から噴き出し、カイザーの剣先に集束していく。


(ダメだ……!)


私の本能が、叫んでいた。


あの二つの力がぶつかったら、ただの戦争では済まない。


私が「大地の裂け目」で感じた、あの金色の温かい力――「調律」の力が、あの二つは「相容れない」と警告している。


「陛下、お待ちくださ……!」


「黙って見ていろ、エリアーナ!」


私の制止は、戦場の興奮にかき消された。


「聖なる光よ、邪悪を貫け!」


「龍のあぎとよ、全てを喰らえ!」


リリアンが放った、天を裂くような純白の光線。


カイザーが放った、大地を割るような漆黒の波動。


二つの、相反する、絶対的な「力」が。


両軍が見守る国境地帯の、その上空で―――激突した。


ズゥゥゥゥウウウウウン……!!


音が、消えた。


いや、音が「歪んだ」。


空気が、ねじ曲がる。


白と黒がぶつかった一点が、まるで日食のように、不気味な光の渦を生み出していた。


そして、異変が起きた。


「……あ……?」


アストリア側の兵士が、困惑の声を上げた。


「ま、魔力が……? 体から、魔力が、抜けていく……!?」


見ると、リリアンの聖魔法が輝けば輝くほど、アストリア側の大地が、急速に色を失っていく。


草は枯れ、地はひび割れ、兵士たちの体からも魔力のオーラが奪われていく。


まるで、リリアンの魔法が、アストリア全土の魔力を「燃料」にして、無理やり吸い上げているかのように。


(これが、「魔力枯渇」の……!)


アストリアの魔力枯渇の真の原因。


それは、リリアン(あるいは、歴代の聖女)が、その身に余る強大な「聖魔法」を使うたび、国中の魔力を「前借り」していたからだ!


だが、異変はそれだけではなかった。


「ぐ……っ!?」


今度は、カイザーが、自らの剣を押さえつけるようにして呻いた。


「陛下!?」


「龍脈が……! 制御できん! アストリアの聖魔法が、龍脈を『刺激』している……!」


黒龍のオーラが、カイザーの制御を振り切り、黒い稲妻となって周囲の帝国兵たちに牙をむき始めた。


「ぎゃあああっ!」


「味方の魔力だぞ!?」


聖魔法が龍脈魔法を刺激し、龍脈魔法が聖魔法をさらに強めようと魔力を奪う。


最悪の、悪循環。


二つの相反する魔法がぶつかり合ったことで、世界そのものの「魔力循環」が、暴走を始めたのだ。


「そ、そんな……」


リリアンが、自らの聖杖を見て、青ざめている。


「私の……私の『聖魔法』が、止まらない……!?」


彼女が制御を失った聖魔法は、もはや「浄化」の光ではなかった。


それは、アストリアからも、ドラゴニアからも、区別なく魔力を吸い上げる「虚無の渦」と化していた。


そして、その制御不能の白い嵐が、矛先を、生みの親であるリリアン自身に向けた。


「ひっ……!? い、嫌……! 来ないで……!」


純白の光が、リリアンに襲いかかる。


世界が、今、ここで崩壊しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ