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浄化

(……は??)


俺は、ヒヒイロカネの短剣を(満一歳の小さな手で)握りしめたまま、完全にフリーズした。 目の前には、何も知らずに俺を威嚇して「ギギッ!」と鳴く、緑色の肌の赤ん坊。 背後には、「さあ、倫理を証明しろ」とキラキラした期待の目で俺を見つめる、最強(で最狂)の両親。


(いや、無理だろ! 無理だろどう考えても!) (中身29歳)の俺の倫理観が、全力で警鐘を鳴らす。 いくらゴブリンでも、赤ん坊だ。 前世で、子供を助けて死んだ俺が、どうして子供を手にかけられる!?


(だが、断ったら!?) 俺が(ブルブル震えながら)何もしなかったら? 「なんだセシル。『虚無ギギ』の処理もできんのか」と失望される? いや、この両親だ。失望がっかりじゃない。 「そうか! まだ『実技』は早かったか! ならば、まず『理論』を完璧にするために、ゴブリンの『成体』を100匹ほど調達してきて、セシルの目の前で『処理』の『お手本』を見せよう!」 ……とか、絶対やりかねん!


(ど、どうすりゃいいんだ……! 詰んでる! 殺っても地獄、殺らなくても(別の)地獄……!)


俺は、脂汗を満一歳児の全身にかきながら、目の前のゴブリンの赤ん坊を睨みつけた。 「ギギッ! ギィ!(※臭い息!)」


(……うっ。くさっ……!)


(……ん?) 俺は、その「匂い」で、ハッと我に返った。 そうだ。 全ての元凶は、俺の(テキトーな)一言。 「ぎぎっ!(※こっち、くさい! きらい!)」 これを、両親は「虚無ギギアニマ無し!」と(超絶勘違い)翻訳した。


(……つまり、だ、こいつが『ギギ(くさい)』じゃなくなれば、『虚無ギギ』じゃなくなる……?) (俺の『倫理(神のルール)』が、根底から覆る……!?)


(……やるしかねえ……!) 俺は、もはやヤケクソだった。 『処理デリート』はしない。 だが、この『ギギ(くさい)』という『状態ステータス』を、俺が『処理デリート』する!


(使うのは、アレだ!) 俺が(古代竜クロのトラウマを抉った)『空間断裂(カット&ペースト)』! あの時は、対象の『一部(鱗)』を『切り抜いた』。


(今回は、『対象ゴブリン』から、『属性くさい』を『切り離す』……!)


(前世の知識で言えば、画像編集の『レイヤーマスク』だ! 『背景(汚れ)』だけをマスクして、『人物ゴブリン』だけを切り抜くんだ!)


俺は(満一歳児の)全魔力(と中身29歳の必死さ)を、短剣の切っ先に集中させる。 父も母も、「おお……ついに『空間断裂』で『虚無ギギ』を消滅させる気だな!」と勘違いして固唾を飲んでいる。


(違う! 俺が『消滅』させるのは、『命』じゃない……!)


(『汚れ(ギギ)』だ!!!!)


「……ふんっ!(※セシルの掛け声)」


俺が短剣を(赤子なりに)突き出した、その瞬間。


キィィィ……ン。


『空間』が、ゆがむ。 だが、ゴブリンの赤ん坊は『消滅』しなかった。


(……え?)


次の瞬間。 カゴの中で「ギギッ!」と鳴いていたゴブリンの赤ん坊が、キョトン、とした顔で動きを止めた。 そして。 さっきまでカゴの底にこびり付いていた、泥、汚物、その他の言語化不能な『汚れ』の数々が、スッ、と『空間』から切り離され、 演習場の隅っこに、ドサッ、と音を立てて『出現ペースト』した。 (※ものすごい異臭が隅っこから漂う)


そして、カゴの中。 『汚れ(ギギ)』という『レイヤー』を『消去』されたゴブリンの赤ん坊はまだ緑色だったが、さっきまでの『ドス黒い』緑色ではなく、まるで『若葉』のような、透き通った(?)緑色の肌になっていた。 獣臭さ(ギギ)も消え、代わりになぜかほのかに石鹸のような清潔な匂いがしていた。


「……ぎゃ?」 ゴブリンの赤ん坊は、自分の綺麗になった手を見つめ、キョトン、と首をかしげた。


「「「「………………」」」」


演習場が、静まり返った。 俺と、父ウォルターと、母アナスタシアと、カゴの中の人間の赤ん坊いつの間にか起きていたと、綺麗になったゴブリンの赤ん坊。 全員が、時が止まったかのように、固まっていた。


(……あ。やべ) 俺は(心の中で)冷や汗をかいた。 『処理デリート』しろ、と言われたのに、『洗浄クリーニング』してしまった。 (こ、これ、怒られる……!?)


「……あ……」 先に口を開いたのは、母アナスタシアだった。 その顔は、『歓喜』でも『恐怖』でもなく、完全な『混乱』に彩られていた。


「……あなた……。今……セシルは……」


「……ああ……」 父ウォルターも、握りしめた拳を混乱でワナワナと震わせていた。


「……『消滅デリート』……しなかった、な……」


「……ええ……。それどころか……『虚無ギギ』を、『浄化ピュリファイ』……しましたわ……」


(……じょうか?) 俺が(キョトンと)首をかしげると、母が震える声で俺の(勘違い)行動を『同時通訳(超々勘違い)』し始めた。


「……まさか……。セシル……。あなた……」


 母の紫色の瞳が、俺をもはや『理解不能な何か』を見る目で見つめていた。


「……あなたは……私たちに、『答え』を示したの……?」


「……『虚無ギギ』とは、『消すべき悪』ではなく、『浄化すべき汚れ』であった、と……!?」


(え? いや、くさかったから洗った(?)だけなんだけど……) 俺の(心の)弁解は、もはや両親の『暴走する解釈』を止められない。


「……そうか……!」 父ウォルターが、ガクッと膝から崩れ落ちた。


「……俺は……俺たちは、間違っていた……!」


(え? 何が!?)


父が(満一歳の)俺の足元にひざまずき、(本気で)悔い改めた顔で言った。


「俺は、今まで『ゴブリン=悪=虚無』と、安易に『処理』してきた……!」


「だが、お前(神)は違った!」


「『ゴブリン(存在)』と『ギギ(汚れ)』は、別物である、と!」


「お前は、この赤子(満一歳)の身で、『命』を殺めず、『悪』のみを切り離すという、『神の慈悲』と『真の倫理』を、我々に示してくれたのだな!!」


(だーかーらー!!!! 違うって!!!!)


「ああ、ウォルター!」


「おお、アナスタシア!」


最強の両親は、俺の目の前で(俺そっちのけで)抱き合い、


「「我らの『倫理観(勘違い)』は、まだ浅かった!!」」 と、号泣し始めた。


(……もう、知らん……) 俺が(疲労困憊で)その場に座り込むと、 「ぎゃ?」 「あう?」 カゴの中で、綺麗になったゴブリンの赤ん坊と、人間の赤ん坊が、互いに不思議そうに見つめ合っていた。


(……神様……) 俺は(満一歳の)両手で顔を覆った。もう、倫理とか道徳とか、どうでもいいです……ただ、ただ……俺に、平和な昼寝の時間をください……!)


こうして、俺ことセシル・ファインダー(満一歳)の、『神の倫理教育(地獄)編』は、 本人の前世の「衛生観念」が、両親の狂った「倫理観」をさらに上書きするという、 訳の分からない『新章(さらなる地獄)』へと、突入してしまったのだった。

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