5 まんまと引っかかるとは
勇んで外に出たものの、日中の日差しは衣服越しでも肌を焦がしそうなほど強い。息をしているだけで気道が焼け落ちそうで、マシュアルは顔を布で覆い、灌木の根本に座って陽光をやり過ごす。
洞穴ならばもう少し涼しいだろうが、昨晩恐ろしい目に遭ったばかりの身としては、足を向ける気にはならないのだ。
時折吹き付ける、砂を帯びた熱風に耐えつつも、マシュアルは証書の在処について思考を巡らせた。
領主の館を出た時には間違いなく持っていた。荷物は腕に抱いて眠っていたし、朝が来ると必ず、盗まれた物がないか確認していた。つまり、ぎょろ目に襲われる日の朝までは荷物の奥底にあったのだ。ぎょろ目が犯人ではないとすれば、日中に落としたか。
マシュアルは昨日の出来事を思い出す。それから、盛大に顔をしかめた。
「もしかすると、あの壺の」
昨日、暑さに耐えかね水浴びをするために河に入った。そこで発見した古びた壺から、見るからに怪しい煙が漏れ出ていたではないか。煙から連想するのは火か妖霊くらいのもの。水底に沈んでいた壺が発火するなど考えづらいので、やはりあれは妖霊だったのだろう。
「探してみるか」
少し暑さが和らぐ時刻を待ってから、マシュアルは木陰を出て河辺へと向かった。
ジーニヤーナ地方は、都に接する大河イシュラ河の上流に位置する。鳥瞰すれば、河が大きく蛇行する窪み部分に位置しており、目立って大きな街はないものの、水が豊かな地域ではある。ここを開発して灌漑農地にでもすれば、聖国にとって利益となろう。それゆえ、この地に蔓延る悪しき妖霊や、災禍の星とやらを放置するわけにはいかないのだ。
しばらく駱駝に揺られていると、砂色の平地と目に痛いほどの蒼天の境目に、砂混じりの大河が見えた。
昨日壺を拾い沈めたのは、一際背の高いナツメヤシの木の正面だ。駱駝から降りて近づいて、養分豊富に濁った流れを見下ろす。陸からでは底が見えないので、水浴びがてら下履きを捲り上げ河に踏み入る。岸辺は浅く流れも穏やかなので、用心深く進めば危険はない。
「確かこの辺りに」
呟きつつ、足先で水底を軽く掘る。重たい泥と石しかない。時折脛に触れる魚や浮遊物を感じつつ、マシュアルは早くも絶望を覚えた。
広大なイシュラ河は遥か下流で海に注ぐ。人間などちっぽけな点にしか過ぎないのだから、あの壺と再会することは困難だし、ひょっとすると証書は水底の泥に沈み込んでいるかもしれない。そうなれば掘り起こすのはほとんど不可能だ。
「一度都へ帰り、証書を失くしたと陛下にお詫びするしか……」
その時だ。
「まんまと引っかかるとは、馬鹿なやつだぜ」
何者かに足首を掴まれて、声を上げる間もなくマシュアルは水の中へと消えていった。大の男が背中から着水したその飛沫すら、大河の流れから見ればほんの小さなさざめきに過ぎない。




