5.誤解
「貴様、私の顔に泥を塗ったな! この盗人が!!」
父上の声があたりに響き渡る。
「落ち着いて、貴方。一体何のことですか?」
母上が慌てて僕と父上の間に立った。
父上は母上を左手で押しのけると、僕のシャツの襟首をつかみ殺気に満ちた顔を僕に近づけた。
「コリンに売った『ポーション』は、どこで手に入れた!? いつ街に行って盗んできたんだ!?」
僕は緊張で口の中がカラカラになるのを感じながらも、父上の目を見てなんとか答えた。
「盗んでいません。……僕が作ったんです」
父上は僕を突き飛ばした。倒れた僕が父上を見上げると、父上は手を腰に当て仁王立ちで僕を睨んでいる。
「そんな嘘で騙せると思ったのか? あきれたやつだ。魔法さえも使えないお前が、ましてや錬金術など使えるはずがない! 泥棒の上に嘘つきとは……救いがたいな、お前は!!」
僕が茫然として父上を見上げていると、父上はチッと舌打ちをして言った。
「……しばらくその不快な顔を私に見せるな。部屋にでも籠っていろ!」
父上は心底不快そうな目で、僕を見下げた。
「食事にも顔を出すんじゃないぞ!」
そう言い残すと、父上は地面を踏みつけるように歩き家の中に戻って行った。
「……メルヴィン、もしかしてこのお金は……」
母上が先ほど渡した金貨を手に乗せて、不安げな表情で僕に尋ねた。
「コリンさんから受け取った『ポーション』の代金です。『ポーション』は、僕が作りました」
「……すごいわ、メルヴィン」
母上は一瞬微笑を浮かべたが、困ったような悲しそうな表情になり僕に言った。
「でも、お父様を怒らせてはいけないわ」
母上の諭すような口調に、僕はいらだった。
「僕は嘘をついていないし、盗んでもいません!」
「……分かっているわ。でも、お父様は絶対なの! ……部屋に戻って、メルヴィン」
母上は苦いものを飲み込んだような顔でそれだけ言うと、うつむいて唇を震わせていた。
***
僕は部屋に戻った。父上が許すまで、「トイレとお風呂の時以外は部屋から出ないように」と母上から言われた。
「まさか、こんなことになるとは思わなかったな……」
一週間たっても、部屋から出ることは許されなかった。
僕は物書き机の椅子に座ると、ポケットから『世界の理』を出し、最初のページから読み直した。
「あれ? 最後のページ、なんか変だな……? ページがくっついてるのかな?」
『世界の理』の最後のページは張り付いていて、めくろうとすると紙が破れてしまいそうだ。
「まあ、いいか。二ページくらい読めなくても」
僕は『世界の理』に書かれている『回復薬』や『毒消し』、『しびれ薬』、『爆薬』などの作り方を読み直した。
「やっぱり、色々作ってみたいな……。でもこの家にいる限り、自分の思い通りにできることなんてないし……」
僕は机に突っ伏して、ため息をついた。
「いっそ、家を出て、錬金術工房に弟子入りしようかな……。それで、立派な錬金術師になって、母上と一緒に暮す、なんてね……」
ばかげた空想に過ぎないと苦笑した。けれど何度も考えるうちに、もしかしたら意外と可能性のない話じゃないかもしれない……と思うようになった。
「そうだよ、なにもこんな家にずっといないといけない理由は無いよね!?」
僕は胸がドキドキと高鳴るのを感じた。




