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魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした  作者: 茜カナコ


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4.ポーション

「それでは、一週間後には検査結果をお伝え出来るかと思います」

「よろしくおねがいします、コリンさん」

 コリンさんは『回復薬』をカバンにしまうと、馬車に乗って帰って行った。

「ほんとうに『ポーション』だったらすごいなあ。……まさかね」

 僕は兄上や父上に見つかる前に部屋に戻った。


「……なんだかすごく眠いなあ。……回復薬を作っているとき、体から力が抜けるみたいな感じがしたのが関係してるのかな?」

 僕はベッドに寝転がると、すぐに寝入ってしまった。


***


「メルヴィン、起きて! メルヴィン!」

 母上の声で目を覚ました。窓から見える空はもう真っ暗だ。

「……あれ? 母上、今何時ですか?」

 母上は、ほっとしたような表情を浮かべた後、心配するように小声で僕に言った。

「もう夕食の時間を過ぎてますよ? 食堂に降りてこないから、使用人にメルヴィンを呼ぶように言ったけれど、返事がないと言われたので慌ててきたところです。……どうしたの? 具合が悪いの?」

「いいえ、ちょっと疲れたのか眠かっただけです。申し訳ありません、すぐに食堂に行きます」

 僕はベッドを降りた。重かったからだが軽くなっているのを感じる。


「それじゃあ、私は先に食堂にいきますね。すぐにいらっしゃい」

「はい、母上」

 母上は僕の部屋を出た。廊下を早足で歩く音が聞こえる。


「急がなきゃ」

 僕は部屋の隅に置かれた鏡をみながら身なりを整え、急いで食堂に向かった。


***


「遅くなりました、申し訳ありません」

 食堂に入り、父上に頭を下げた。

 父上と兄上はすでに食事を始めていた。

「……食事に遅れるとは。偉くなったものだな、メルヴィン」

 父上は僕に目を向けることもなく、食事を続けながら言った。


「何をしていたんだ?」

「少し休憩するつもりが眠ってしまいました」

 父上は鼻で笑うと吐き出すように言った。

「ろくに勉強もせず、魔法も使えず、寝て食うだけとはな。生きているのがはずかしくないのか、不思議なものだ」

 冷笑する父上の声を聞き、僕は手元をじっと見た。自分の顔が赤くなっていくのが分かる。僕には、握りしめて震える手を膝の上に置き、残飯の乗った皿をただ見つめることしかできなかった。


「貴方、メルヴィンもメルヴィンなりに頑張っているんですからそんな言い方は……」

 母上がおびえるような口調で、僕をかばってくれた。

「この私に口答えをするのか? クズはクズ同志でかばいあうものなのだな」

 父上は眉をひそめてワインを飲んだ。タンッ、とグラスが机の上に置かれる音が響き、母上と僕は身を縮めた。

 兄たちと父上のさげすむような冷笑から目をそらすように、母上と僕はうつむいていた。


 気づまりな食事の時間が終わり父上と兄上が食堂を出てから、母上と僕も食堂を出た。

 

「メルヴィン、もう食事の時間には遅れないでね」

 母上が遠慮がちな笑みを浮かべて、小さな声で僕に言った。

「はい。ごめんなさい」

 その後に「食事中に僕をかばってくれてありがとう」と言おうとしたけれど、のどの奥に言葉がつかえて、それ以上何も言えなかった。


 一週間後


 僕が庭の草を抜いていると、コリンさんがやってきた。僕に気づいたコリンさんは、早足で近づいてくる。

「メルヴィン様! 先日の『回復薬』は、やはり『ポーション』でした! しかも、かなり高品質なものです! どこで手に入れたんですか!? これだけの品はなかなかありません。有名なマクネアー工房の『ポーション』より高品質かもしれないんですよ!?」

 まくしたてるように話すコリンさんを茫然と見ていると、コリンさんが僕の手を取って熱心に言った。


「この『ポーション』でしたら小瓶一つで金貨二枚はお支払いします。メルヴィン様はまだほかにも、この『ポーション』をお持ちなんですよね!?」

 僕は自分が作ったと言っていいのか迷い、とりあえず「まあ、手に入れることはできるかと思います」と答えた。


 興奮気味のコリンさんは言った。

「これからもよろしくおねがいします。こちらのお預かりしている『ポーション』を、金貨二枚で買いとらせていただけますでしょうか?」

「……おねがいします」

 僕はコリンさんから金貨二枚を受け取った。コリンさんは上機嫌でポーションをカバンにしまい、お辞儀をした。


 僕は金貨をポケットに入れた。

「すごい……僕の作った『回復薬』は『ポーション』だったんだ……。しかも金貨二枚で買い取ってもらえるなんて」

 にやけてしまう頬を両手で押さえて、僕は「おちつけ」と自分に言い聞かせた。


「メルヴィン、庭の掃除は終わったの?」

「母上」

 僕は慌てて抜いた草をまとめて庭の隅に集めた。

「いつもありがとう、助かるわ。メルヴィン」

 母上は申し訳なさそうに微笑むと僕の頬を撫でた。


「あ、あの、母上! これを……」

 僕はコリンさんからもらった金貨を母上に渡した。

「どうしたの、こんな大金!?」

 母上は目を丸くしている。

「あの、僕の作った……」


 僕が母上に答えようとしたとき、家の中から雷のような轟音で名前を叫ばれた。

「メルヴィン!! どこだ!! メルヴィン!!」

「えっ!?」


 僕が玄関の方を見ると、顔を真っ赤にして人を絞め殺しそうな形相の父上が目に映った。

「メルヴィン! 貴様と言うやつは!!」


 父上は血走った目で、僕の目を射抜くように見据えた。


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