28.図書館
休日。
窓から日の光が差し込んでいる。今日も天気がよさそうだ。
部屋でビルから借りたノートを呼んでいると、ドアがノックされた。
「おはよう、メルヴィン。もう起きてる?」
ドアを開けると、カバンを肩から下げたビルが立っていた。
「おはようございます、ビルさん」
僕も荷物をまとめ、カバンを斜めがけにして部屋を出る。
通りに出たところで、ビルが言った。
「メルヴィンは図書館に行くのは初めてだったよね」
「はい」
工房を出て右に曲がり、まっすぐ歩いて行くと左手に大きめの建物が見えた。
「ここが図書館だよ」
「近いんですね」
「うん」
ビルはドアを開けて図書館の中に入って行く。僕も後について行く。
「やあ、ビル。今日も勉強かい?」
青年がビルに軽く手を振った。
「あ、セドリックさん! 今日は友達を連れてきたんです」
「友達? ビルが友達を連れてくるのは初めてじゃない?」
ビルは僕の肩に右手を置いて、左手を青年に向けた。
「メルヴィン、こちらが司書のセドリックさん。セドリックさん、こちらはメルヴィン。うちの工房に入った錬金術師見習いだよ」
「メルヴィンといいます。よろしくおねがいします」
僕はセドリックに頭を下げた。
「よろしく」
セドリックは手を差し出してきた。握手する。大きな筋張った手だ。セドリックは背が高くて細身で、短く切った茶色い髪がグレーの帽子からはみ出している。
「セドリックさん、錬金術の本ってありますか?」
僕がセドリックに尋ねると、セドリックは腕組みをして、難しい顔をした。
「うーん。錬金術の本は王宮にしかないんだよね。ここの図書館に王宮の本の写しがあるにはあるんだけど、一般公開はしてないんだよ。ごめんね」
「そうですか……」
肩を落とした僕に、セドリックは言った。
「錬金術を勉強してる子ならいるんだけどね」
「え? そうなんですか? どんな人ですか?」
僕が聞くと、セドリックは一瞬考えた後で言った。
「ちょっと来てもらえるかな」
セドリックは図書館の奥に歩いて行った。
机の上にならんだ本を見ながらノートになにか書いている女の子に、セドリックは声をかけた。
「エイミー」
「なあに? セドリック?」
僕と同じくらいの年頃に見える女の子が、ぴょこんと顔を上げた。
おかっぱの赤髪に縁どられた白い顔にはヘーゼルの目が輝いている。エイミーは僕たちを見て、訝し気にゆがめられる。
「あんたたち、誰? あれ? あんたは会ったことある?」
エイミーの視線がビルにむけられると、ビルは一歩下がって顔を伏せた。
「この子たちも錬金術の勉強をしてるんだって。エイミーと仲良くなれるかなって思って連れてきたんだけど」
セドリックがエイミーに微笑みかけると、エイミーは一瞬顔を赤くしたが、唇を尖らせて言った。
「お気遣いは結構。勉強の邪魔よ」
エイミーは視線を本に戻した。
「たぶん、彼女がこの図書館で一番錬金術について勉強していると思うよ」
「そうですか」
僕が言うと、セドリックは笑顔で頷いた。
「エイミー、よかったら錬金術についてこの子たちにも教えてあげてね」
「……気が向いたらね」
エイミーは本から目を離さずに返事をした。




