20.ビルと僕
「昔って?」
思わず僕がビルに問い掛けると、ビルはハッとしたように目を見開いて、首を振った。
「つまらないことだよ。じゃあね、メルヴィン」
ビルはにっこりと笑うと仕事に戻って行った。
「……なにか悪いこと言っちゃったかな?」
僕はビルの去って行った方を見て、首を傾げた。
***
「ふう。今日はこんなところかな?」
鍋に入ったポーション液をかき混ぜる手を止める。
僕が工房で働き始めてから一週間が経った。
掃除や薪割りや水汲みを中心に、雑務をこなすのにも少し慣れてきたような気がする。
仕事は大変だけれど、午前中に行うポーション作りは楽しい。一週間試してみて、僕が体調を崩さずに作れるポーションの数は一日当たり二つか三つだと分かった。
「ポーションも、繰り返し作っているうちに、もっと作れるようになるのかな?」
作ったポーション液を瓶に詰めると、僕はニコラスを探した。
ニコラスは店で接客をしていた。お客さんが帰っていったので、僕はニコラスに声をかける。
「ニコラス様、ポーションができました」
「ああ」
ニコラスは僕から受け取ったポーションを光にかざし、少し揺らした。
「あの……? 僕の作ったポーション、なにか変ですか?」
「ん? ……別に問題は無い」
ニコラスはポーションを奥の棚にしまうと僕に言った。
「メルヴィン、仕事に戻れ」
「はい」
僕は中庭に移動し、薪割りを始めた。
昼の鐘が鳴り、しばらくするとデニスがやってきた。
「メルヴィン、そろそろ昼食だ」
「はい」
工房の昼食は簡単に済ませるのがマクネアー工房のやり方らしい。お客さんがいなくなったタイミングで、ニコラスとビルが工房に戻りパンとチーズをつまむ。次にフランクが、最後にデニスと僕が昼食を済ませる。
簡単な昼食がすむと、午後の仕事に取り掛かる。
僕が少なくなった水がめに水を入れていると、ビルが工房にやってきた。
「どうしました?」
「ちょっと薬草を取りに来たんだ。……メルヴィン、仕事には慣れてきた?」
「はい」
「よかった。また時間があるときに、君の話を聞かせてね」
ビルは僕に向かってニコリと笑うと、積んである箱から薬草を取り出し店へと戻って行った。
「ビルさん、僕のこと気にかけてくれてるんだ……。優しいなあ」
僕は、心が少し暖かくなったような気がした。




