19.アクシデント2
(どうしよう……)
僕が何も言えずに立っていると、ニコラスは片眉を上げ、僕のことを睨んだ。
「工房のものを勝手に使ったのか? それは泥棒と同じだ!」
ニコラスの視線が冷たい。僕は言い訳をすることもできない。
立ち尽くしていると、ビルが僕とニコラスの間に割って入って、ニコラスに言った。
「父さん! 僕が許可を出しました! 半端なポーションは捨てるだけだから、欲しかったら持って行っていいと、僕がメルヴィンに言いました!」
「……工房では工房長と呼ぶように言っただろう、ビル? まったく……ビル、お前は甘い。……メルヴィン、今後、このようなことがないように。ポーション代はお前の給料から引いておく」
ニコラスはそう言うと、店の奥のほうに歩いて行った。
「ごめんね、僕が良いって言ったから……」
しょんぼりしたビルが僕に頭を下げた。
「いいえ、あの、大丈夫です。かばってくれてありがとうございます」
僕もビルに頭を下げると、ビルは顔を上げて小さく笑った。
僕たちが店の仕事にとりかかろうとしたとき、表のドアが開いた。
「すいません! 先ほどこちらで娘を助けてくれた方はいらっしゃいますか?」
「はい?」
「あ! あのお兄ちゃんが痛いの直してくれた!」
「ああ、さっきの……。どうしたの?」
僕が女の子に声をかけると、紳士がつかつかと僕の方に歩み寄ってきた。
「貴方が私の娘を助けてくれたんですね。ありがとうございました。さすが高名なマクネアー工房ですね。従業員の方もとても親切なんですね」
身なりの良い紳士と、豪華なドレスを着た婦人が、さっき店の前で転んだ女の子と一緒に立っている。紳士は店の中をぐるりと見渡し、僕に言った。
「ふむ……せっかくですから、ポーションを二ついただきたいのですが」
紳士たちに気づいたニコラスが、店の奥から早足でやってきた。
「いらっしゃいませ。いかがいたしましたか?」
ニコラスは笑顔を浮かべたまま、紳士に尋ねた。
「私は工房長のニコラスと申します。うちの従業員が何か?」
紳士は帽子を軽く持ち上げ、目礼をして言った。
「先ほど、こちらの方が娘を助けてくださったので、お礼に参りました。マクネアー工房は従業員も素晴らしいのですね」
「おほめにあずかり恐縮です。常に人を思いやるよう、教育しておりますので」
「流石ですね」
ニコラスの態度の変わりようを見たビルが、苦笑いをしている。
紳士たちはポーションを受け取り、金貨をニコラスに渡すと笑顔で店を出て行った。
「父さん、メルヴィンのおかげで工房の評判が上がったね」
「工房長と呼べ、ビル。今回は、たまたまだ」
ニコラスは人差し指を僕に向けて言った。
「メルヴィン、今回は見逃してやるが調子に乗るなよ?」
ニコラスは僕を軽く睨んで、店から出て行った。
「父さん、昔はあんな風じゃなかったんだけどな……」
去って行くニコラスの背中を見ながら、ビルが寂しそうにつぶやいた。




