16.作業所
デニスは錬金術工房の裏口から中に入ると、作業をしているビルに声をかけた。
「ビルさん、ただいま戻りました」
「おかえり、デニス、メルヴィン。荷物を置いて着替えてきてね」
にっこりと笑うビルに、デニスは愛想よく返事をした。
「はい」
ビルが作業に戻ると、デニスは僕の方を向いて低い声で言った。
「ほら、行くぞ。メルヴィン」
デニスに続いて、僕が荷物を抱えて二階に上がろうとしたとき、ビルが僕に声をかけた。
「メルヴィン、君は制服を持ってないでしょう? 僕のお古でよければ、明日持ってきてあげるけど、いる?」
「ありがとうございます。……お願いします」
思ってもいなかった言葉に、僕はとまどった。そう言えば、ビルもフランクも、おそろいの黒いジャケットとズボンを身に着けていた。(あれって、制服だったんだ)と思いながら、ぼんやりとしてるとデニスのいら立った声がした。
「メルヴィン、何をしてるんだ!?」
あわてて、ビルにお辞儀をしてから二階に駆け上がる。
自分の部屋に戻ると買ってきた荷物を置き、そのなかから黒いジャケットとズボン、シャツを取り出し、すぐに着替えた。脱いだ服を見て、ため息をつく。
「洗濯もしないといけないな……」
僕は机の上に置いた全財産、銅貨10枚を見つめてもう一度ため息をついた。
ドアが叩かれ、デニスの怒鳴り声が響く。
「メルヴィン! 着替えたら作業場に来るんだ! 急げよ!」
「はい!」
僕は銅貨を袋に入れて机の引き出しにしまうと、部屋を出て作業場に向かった。
「ああ、戻ってきたね。デニス、メルヴィン、よろしく」
「はい、ビルさん」
デニスが頭を下げたので、僕も頭を下げた。
「デニスは店のフランクを手伝って」
ビルの言葉にデニスが頷く。
「はい、行ってきます」
制服を着たデニスが店に向かう。
「メルヴィンは……掃除を頼もうかな」
「はい!」
「元気がいいね」
ビルは優しく微笑んだ。
僕は机の上をふきんで拭いたり、床をはいたりした。
「メルヴィン、仕事に慣れるまで大変だと思うけど、僕にできることがあったら手伝うから何でも言ってね」
「……ありがとうございます」
ビルはニコラスの息子なのに、なんだかとても優しい。僕が警戒していると、ビルは困ったような笑みを浮かべて言った。
「僕が親切なのは変かな? ……父さんだって、昔はこんなに厳しくなかったんだよ?」
ビルの笑顔は少し寂しそうだった。




