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魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした  作者: 茜カナコ


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11.食事

 デニスの部屋の扉をノックすると鋭い声が返ってきた。

「遅い!」

 扉を開けたデニスはいら立ちを隠さなかった。

「申し訳ありません」

 僕が頭を下げると、デニスは舌打ちをして部屋から出てきた。

「台所に行くぞ」

「はい」


 僕は台所の場所なんてわからない。遅れないようにデニスについて行った。


 デニスは階段を降りて、工房とは反対側に進んで行った。

 扉を開けると小さな部屋があり、奥に台所があった。

「食料は毎週ニコラス様が注文してくださる」

「はい」

「……ニコラス様からおまえの分の食事も用意するように言われた。ったく、食材だって一人分でギリギリなのに冗談じゃない……」


 デニスは台所の隅に置かれた箱から芋と玉ねぎを出し、吊り下げた袋から干し肉を取り出すと調理台に並べた。

「お前はかまどに火をつけて、水を入れた鍋を置け」

「あの、水はどのくらい入れればいいですか?」

「鍋の半分くらいだ」

「わかりました」


 まず、薪をかまどにいれ、火をつける。次に水がめから柄杓で鍋に水を入れ、かまどに置いた。

「芋の皮をむけ」

 デニスが僕に芋を投げた。

 僕は調理台からナイフをとり、芋の皮をむき始めたが、今までやったことがないのでうまくいかない。デニスはその様子を見て「使えねえな」と舌打ちをして僕から芋とナイフを取り上げた。


 デニスは芋の皮をむいた後、芋と玉ねぎと干し肉をナイフで刻み、少しの塩と一緒に鍋の中に入れた。

「煮えたら完成だ。吹きこぼれないように火加減を調節しておけ。次の食事からは、お前がスープを作れ」

「はい」


 デニスは僕に命令すると、自分は台所の脇の小部屋に行きテーブルの前の椅子に腰かけた。僕が鍋をかき混ぜているとデニスが話しかけてきた。

「……お前、どうやって錬金術を覚えたんだ? 錬金術師の子どもか? メルヴィンなんて名前、聞いたことないぞ?」

 デニスがテーブルに頬杖をついて、不機嫌そうに僕に尋ねた。


「あの……偶然、作れたんです」

 僕が『世界の理』を持っていることがばれないように適当に答えると、デニスが机をたたいて大声を上げた。

「偶然作れた!? ふざけんるんじゃねえよ! ……俺は二年も見習いをしてるのに……作れてない……そんな簡単に作れるわけが……クソッ!」

 デニスはガシガシと頭をかいた。


「あの、鍋が沸騰してきたんですけど」

 僕の言葉にデニスが目を吊り上げた。

「火からおろせ! そのくらいもわからないのか? 馬鹿が」

 デニスは立ち上がり、かまどの前に来ると僕を押しのけた。デニスは出来上がったスープを自分の皿に入れ、調理台のわきから固いパンを一つとり、小部屋のテーブルに運んだ。

「棚にある皿を使って良い。お前も食べていいぞ」

 デニスは仕方ないという風に、スープの入った鍋を指さした。


「ありがとうございます」

 僕はスープを皿にいれ、パンを取ろうとした。

「は!? 誰がパンを取って言いって言った!? お前はスープだけに決まってるだろ!? 急に来たやつのパンがあるわけないだろう!?」

 デニスに睨みつけられて、僕はパンに伸ばした手を引っ込めた。


 僕もスープの入った皿を持ち小部屋に移動した。デニスが自分の前の席を顎で示したので、僕はそこに座った。

「いただきます」

 具材のほとんど入っていないスープを飲みながら、デニスの様子をうかがう。


 デニスは硬いパンをスープにつけながら、何も言わず食べ続けていた。食事が終わると、デニスは僕に言った。

「片づけはお前がやれ」


 僕が鍋と皿を洗っているあいだ、デニスは納得のいかない顔をして僕を眺めていた。


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