ナンバルゲニア・シャムラードの日常 99
「おう、やっとるな」
部屋に入ってきたランはご機嫌だった。続くロナルドや岡部も先ほどのエンジン交換の場面に立ち会えたことに満足してるようで穏やかな表情でそれぞれの席に戻った。
「シャム。アンの訓練メニューはどうだ?」
「今作っているところ。……そう言えばアン君は?」
遅れて入ってきた誠とカウラは途中からの会話に理解できないようでしばらく首をひねったあとそのまま自分の席についた。
「ああ、フェデロの並走を頼んだよ。やっぱりちゃんと走らさないと示しがつかねーからな」
ランはこともなげにそう言うとそのまま自分の端末を起動した。
「俊平、どう?」
シャムはよく分からないプログラム画面を操作している吉田を見上げた。吉田はまるで聞いていないと言うようにキーボードを叩き続ける。
「かなり難易度は高くしたつもりだよ。武装勢力には3名のゲルパルト旧軍の軍事顧問を参加させた。通信用ヘッドギアの普及率は50パーセント。各ブロックには稼働率96パーセントの対人センサーを配置」
「かなりシビアになるね」
「シビアにしろと言ったのはシャムだろ?まあクリアーできたときより失敗したときのほうが学ぶことは多いものだからな。それに……」
「それに?」
何かを言いよどむ吉田をシャムは不思議なものを見るような目で見上げた。
「どれだけ楓のことをアンが信じているか分かるのは面白いだろ?」
吉田の口に悪い笑みが浮かぶ。
「そうよね。普段の楓ちゃんからはその実力は分からないものね」
「え?嵯峨少佐ってそんな実力者だったんですか?」
聞き耳を立てていた誠が端末の脇から顔をのぞかせてシャムを見つめてくる。好奇心満々の瞳。シャムはそれを見て満足げにうなづく。
「要ちゃんが大尉でカウラちゃんも大尉。でも楓ちゃんは少佐。階級が違うのには意味があるのよ」
「その割りにお前さんは中尉だな」
思わず吉田が突っ込みを入れた。シャムはむっとして吉田を見上げるが相変わらず彼の目は画面に固定されて動くことがない。
「まあすごく全体を見て行動できるパイロットよ。無理もしないし」
「今度の実機を使った演習ではお相手したいものだな」
カウラがそう言いながら端末にデータを入力している。誠はそれを見て上の空でうなづくと再び自分の作業を再開した。