表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/151

ナンバルゲニア・シャムラードの日常 96

「アタシ達も行こうよ」 


「私はしばらく見ていくつもりだ。先に行ってくれ」 


 カウラの言葉。誠もじっとその横に立ち尽くしている。シャムは仕方なくそのままハンガーを後にした。


 外に出ると急に気温が降下したように体が冷えるのが感じられる。ランニングが終わってしばらくは暖かかった体のままハンガーの中のエンジンの出す猛烈な熱を浴びていた。その為筋肉が冷えてきても温かさを感じていたせいで北風の吹きすさぶグラウンドの空気はことさら体に堪えた。


「そうだ、グリンに会いに行こう」 


 シャムはそう言うと小走りで隊の建物に沿って走った。


 日陰は寒いのでそのまま大回りで正面玄関に向かうアスファルトの道を走る。まもなく夕方という時間。一番舞台の暇人達が珍しく仕事をする時間だった。


 隊の車両置き場も人影は無く、洗車の後と思われる水溜りがその前に見えるだけで沈黙の中にあった。


「わう?」 


 車両の並ぶ銀屋根の隣の小屋。その檻の中の茶色い塊が動いているのが見えた。


「グーリン!」 


 シャムの声にグレゴリウス13世はすぐ気づいて檻の中で振り向く。満面の笑みだ。半開きの口で近づいてくる巨大な熊を見ながらシャムはそう確信した。


「わう……」 


 手前にある人の頭ほどの大きさの皿はすっかりきれいに舐めあげられていた。日中は留守になることが多いシャムということもあってグレゴリウスの餌やりは日中は警備部と技術部の車両管理班が交代で担当していた。


 グレゴリウスの母は遼南でシャムとコンビを組んでいた名熊の熊太郎だが、彼女に比べると確かに明らかに劣るがグレゴリウスも馬鹿ではない。最初は彼等を脅して喜んでいたが、餌がもらえなくなると分かった最近では餌を持って近づく彼等には非常に紳士的に接するようになっていた。


「お昼はおいしかった?」 


 そう言いながらシャムは檻の扉を開く。シャムが大好きなグレゴリウスだが飛び出すと大目玉を食らうことは覚えているのでじっとシャムが入ってくるのを待っていた。


「……」 


 しばらく黙ってシャムを見つめているグレゴリウス。シャムはそのまま彼の近くによるとしゃがんでいるグレゴリウスの肩をぽんぽんと叩いた。


「ごめんね。今日は夕方の散歩は出来そうに無いよ。タコが来ているから今日は練習は試合形式になると思うんだ……」 


「わう」 


 シャムの言葉が分かっているのかどうか分からないが少し甘えるようにグレゴリウスがつぶやく。


「だからいい子にしてるんだよ」 


 そう言うシャムにグレゴリウスは顔を寄せた。シャムの頭の倍以上の大きさの頭を撫でる。そのごわごわした毛皮の感触がシャムはお気に入りで何度もその頭を撫で続けた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ