ナンバルゲニア・シャムラードの日常 95
誠はしばらく考えた後ゆっくりと説明を開始した。
「ええと、それじゃあ行きますよ。まず対消滅エンジンの動力源は?」
「馬鹿にしないでよ。反物質。たしか……ヘリウムとかから作るんだけど……ヘリウムガスと関係あるの?」
いつものように脱線するシャム。誠は無視して話を続ける。
「そうなんですが、とりあえず人工的に反物質としたヘリウムをさっきシャムさんが言ったヘリウムとぶつけて対消滅反応を起こしてエネルギーを発生させてそれを利用して多量の電気エネルギーや波動エネルギーを利用してパルスエンジンでの飛行や関節の運動に使っているわけですが……かなり巨大なエネルギーが得られるのは分かりますよね?」
わかって当然と言う顔の誠なのでしかたなくシャムはうなづいた。
「比較的現在の反重力エンジンは効率がいいエンジンなんですがそれでも多量の熱が発生します。まあオリジナルタイプに関しては、これを法術で位相空間に転移させてさらに対消滅反応を加速させるなんていう荒業をやってのけるわけですが、それはそれ。ものすごい高温を何とかしないとエンジンが破損してしまうんです。その為に冷却材として使用されるのがナトリウムです」
「お塩を使うんだ」
「それは塩化ナトリウムです」
呆れてアンが口を挟む。シャムはそれを聞いてもまだ分からないような顔をしているので誠は別の切り口から説明をすることにした。
「ともかく熱いままだと触れないでしょ?お鍋とかも」
「そう言うときは台布巾で……」
「台布巾は関係ないです!ともかく冷やさないとエンジンのメンテナンスが出来ないから今冷やしている作業中なんですよ」
誠はさすがにさじを投げたと言うように叫んだ。今だに分かっていないシャムを見てカウラは誠の説明能力が足りないと嘆くようにため息をついた。
「で……冷やすのになんでそのなとりうむなの?」
「温度が高すぎるんですよ。水なんかだと高温すぎて安定しませんから」
アンの言葉を聞いてもまだシャムには理解できなかった。
「じゃあなとりうむを一杯入れたら冷えるんだね」
「別に量は関係ないですけどとりあえず冷やす工程をしばらく続けてから運び出し作業に入るみたいですよ」
そう言うとアンはハンガーの出口に向かう。
「見て行かないの?」
「昼過ぎの訓練のレポートを進めたいんで」
そう言ってふざけたように敬礼するとそのままアンは走ってハンガーを出て行った。