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ナンバルゲニア・シャムラードの日常 94

 相変わらずの修羅場が目の前に展開されていた。出たときは無かった巨大なコンテナがシャム達の行く手をさえぎっている。


「あれなに?」 


「エンジンですよ、対消滅エンジン。多分『カネミツ』か『クロームナイト』……」 


「え?『クロームナイト』?」 


 アンの言葉にシャムは身を乗り出した。コンテナの周りには耐熱装備の整備班員が見える。事実すでにハンガーの外の冷風が中から噴出す熱風で汗が自然に流れるほどになっていた。


「ああ、ナンバルゲニア中尉!」 


 声をかけてきたのはつなぎ姿の西だった。彼はエンジンの担当とは別のようで見物人のような顔でシャム達に振り返ってくる。


「どうしたの?西きゅん」 


「西きゅんは止めてくださいよ。ここは危ないですよ、正門から回ってください」 


「でもあそこ」 


 シャムが指差す先には耐熱装備の技術者と語り合っているラン達の姿が見えた。


「ああ、あれは……説明を受けてるんだと思いますよ。オリジナル・アサルト・モジュール用のエンジンの積み替えなんてめったに見れませんから」 


「それじゃあやっぱり『クロームナイト』のも?」 


 心配そうなシャムにアンは笑顔で首を振った。


「違いますよ。『ホーン・オブ・ルージュ』です。あれは以前からエンジンの出力が安定しなくて……それでさっきから『05式』とかのエンジンのデータと一部反応済み反物質を抜き出して対消滅エンジンの安定領域まで持ち込んでから今の抜き出し作業をやっているわけです」 


「そうなんだ……」 


「分かっているのか?」 


 カウラの声が後ろに響いた。


「ええと……分かんない」 


「だろうな」 


 そう言うカウラの目は目の前の交換作業に集中している。隣では誠も黙ってエンジンの入ったコンテナを見つめていた。


 コンテナに天井からホースのようなものが下ろされる。耐熱服を着た整備班員がそのホースの先を受け取るとそのままコンテナにそれを接続する作業に入っていた。


「ねえ、誠ちゃん。誠ちゃんは本当は技術畑でしょ?」 


 シャムの言葉にしばらく気づかなかった誠だが、彼女の足踏みを聞くとようやく理解したと言うようにうなづいた。


「あれですか?今はエンジンの中は反応は沈静化しているはずですがまだまだ高熱を持っていますから。それを覚ますためにとりあえずナトリュウムを注入するんです」 


「なとりうむ?お塩?」 


 シャムの頓珍漢な答えにしばらく誠は頭を抱えながらシャムでもどうすれば分かるように説明できるか考え始めた。




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