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ナンバルゲニア・シャムラードの日常 90

「確かに……そうですね」 


 フェデロの意図が分かりつつも渋々つぶやくアンだった。口八丁のフェデロのことである。ほとんど強奪同然の調達方法をとったに違いない。その尻拭い。だが助けを求めるように目を向けたロナルドのうなづいているのを見てアンもなんとか気を取り直してフェデロから自転車を受け取った。


「じゃあ、返してきますから」 


「おう!頼むぞ」 


 皆に見送られてアンが自転車で来た道を走り出す。それを見送りながらランはスクラッチを始めた。


「それじゃー帰り道か……体育館経由で行くか?」 


 ランの言葉にフェデロが目を輝かせた。それがシャムには滑稽に思えて噴出した。体育館はこれもまた実業団最強の女子バレー部を始め多くの女子選手が練習をしている時間だった。中にはマスコミに取り上げられる美人アスリートも何人かいる。当然フェデロの目当てはそれだった。


 でもそれを知っていてランがなぜ明らかに規律を乱す行動をとったフェデロを優遇するような道を選んだか。要するにそれがロナルドが帰ってから与える罰の厳しさを物語っているのだろう。楽天家のフェデロは妙に張り切ってジャンプなどをして体を温めている。誠は呆れてそれを眺めている。


「フェデロ……ご愁傷様だな」 


「え?何が?」 


 能天気に答えるフェデロ。それを見ると笑顔で明石が自転車のペダルに足をかけた。


「休憩は終わりや。行くで」 


 そのまま自転車を漕いで信号が青になった正門前の道路を横断し始める。ランを先頭に一同はその後ろを走り始めた。ランに続くのはすっかり元気を取り戻したフェデロ。それに彼を監視するようにしてロナルドと岡部が左右に並走する。少し離れて誠と要にカウラが走る。シャムは何か面白いことが起きそうな予感がして最後尾を静かに走ることに決めた。


 来た道を帰る。つまりこれまで南下していた道を北上すること。当然風は逆風である。障害物の無い正門前の大通りには強い季節風が吹きつけている。小柄なシャムは誠達を風除け代わりにしているが、先頭を走るフェデロには直接その強い風が当たっていると言うのにスピードはまるで落ちない。


「いつまで続くかね」


 要の呟きが聞こえてシャムも視界が開けるように歩道の車道よりを走ることにした。フェデロは相変わらずハイペースで前を行く明石の自転車を急かすように走り続ける。


 ハイペースで続くランニング。すぐにその列は大通りを抜け大型モーターを製造している長いラインが入っている緑色の巨大な建物に突き当たった。道は左へと曲がっている。当然明石はその道に沿って進んだ。建物のおかげで風がさえぎられるだけでなく背中に日差しを浴びて少しばかり暖かく感じながらシャムは走り続けた。


「あ……」 


 突然誠が気づいたように口を開いた。シャムはその表情が見たくなって一気に誠達に追いついた。


「なんだよ、突然」 


「フェデロ中尉。勘違いしていますよ」 


「勘違い?」 


 誠の言葉に要が首をひねる。カウラも勘違いの内容が分からずにしばらく考え込むような表情をした後そのまま視線を前へと向けた。



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