ナンバルゲニア・シャムラードの日常 9
「俊平!開けてあげて!」
シャムの言葉に街灯の下で吉田は渋い顔をした。
「こいつ俺のこと嫌いだからな……」
「そんなことないよ!ねえ!」
「わう!」
大好きなシャムの言葉にうなづいているように見えるグレゴリウス。それを見ながら苦笑いを浮かべつつ吉田は電子ロックを解除した。
グレゴリウスはしばらく周りを見渡す。全長五メートルの巨体だが、コンロンオオヒグマとしては子供のグレゴリウスはただびっくりしたように慎重に歩き始めた。
「じゃあアタシはグレゴリウスのご飯を作ってくるから!」
「おい!待て!」
シャムがそのまま裏手の倉庫に向かったときにすぐにグレゴリウスは吉田に襲い掛かった。
「馬鹿!糞熊!」
サイボーグらしく間一髪でかわす吉田。だがグレゴリウスはうれしそうに右腕を振り上げる。
「こいつ!俺を殺す気か!」
「こんなもんじゃ死なないからやってるんだろ?」
「うわ!」
突然背中から声をかけられて吉田はバランスを崩した。その顔面に突き立てられそうになったグレゴリウスの右腕だが寸前で止まり、そのままおとなしく地面についた。
「隊長……見てたなら止めてくださいよ」
じりじりと後ろに下がっていくグレゴリウスを警戒しながら吉田は声の主のほうに目を向けた。
着流し姿の保安隊隊長嵯峨惟基特務大佐のすがたがそこにあった。
「だってさあ……楽しんでいるように見えたから」
「俺のどこが楽しんでたんですか!」
「いや、お前じゃなくてグレゴリウス君がだよ」
「わう!」
嵯峨の言葉をまるで理解しているようにグレゴリウスがうなづいた。