ナンバルゲニア・シャムラードの日常 87
さすがにダッシュをした後、シャムも十分体が温まって冷たい風も気にならなくなってくる。
「……はっ、はっ」
誠がまじめな顔をして隣を追い抜こうとしている。シャムはそのまま大きな誠を風除け代わりに後ろにくっついて走り出した。
「中尉……」
「何?」
突然誠から声をかけられて驚いて返事をした。
「……後ろ、どうなってます?」
「何よ、誠ちゃんは上官を使うわけ?」
「……そんなつもりじゃ……」
そう言うと誠が振り向いた、一瞬下のシャムを見た後遠くを見るような目をした。その目は明らかに呆れたような感じでそのまま前を向いた。シャムもそれを見て真似して後ろを眺めてみる。
二十メートルくらい離れたところにはアンが走っている。シャムとランは例外としても体力的には一番劣る小柄なアンが必死に食らいついていくのは好感が持てた。問題はその後ろだった。
フェデロが遠くに置き去りにされていた。それだけならいつものことなので当然だったが、彼はなぜか自転車に乗っていた。
「あ、フェデロ……いんちきしてる」
「……まあそのうちスミス大尉も気づくんじゃないですか?」
誠はちょいと振り向いてそれだけ言うと足を速めた。シャムもそれに遅れまいとペースを上げる。
グラウンドに沿った道がそのまま保安隊の隊員が『中央事務所』と呼んでいる建物の隣に伸びていた。主に営業や事務関係者が多いらしく、それまで脇を通る車がほとんど何かを載せたトレーラーだったのにこの辺りから営業車が増え始めていた。車が小さくなれば数も増える。そしてそれだけシャム達を見る目も多くなる。シャムは追い抜いていく車に笑顔を見せながら誠の後ろを走り続けた。
そしてそのまま『中央事務所』の建物の隣の営業車が並んでいる駐車場を抜けたところだった。突然ロナルドが派逆方向に猛ダッシュで走って通り抜けていく。
「ああ、やっぱり誰かチクッたんだね」
シャムの言葉に彼女から見える誠の口元が笑っていた。
「……まああの人のことだから……多分フェデロさんだけもう3キロ追加ですよ」
誠の言葉にシャムはうなづきながら真っ直ぐ工場の正門に向かう直線道路を走り続けた。