ナンバルゲニア・シャムラードの日常 82
「遅せーぞ!」
扉を開くとすでにジャージを着込んでいるランの姿が目に入った。シャムは頭を下げながら自分のロッカーに手をかけた。
「そう言えば……ランちゃん」
昨日ランニングに出たときに今日は持って帰ろうと思っていたことを思い出しながらシャムはつぶやいた。
「何だ?リアナの抜ける穴のことか?」
部屋の奥の出っ張りに背中をつけたまま真正面を見つめているランが答える。シャムはあっさりと自分の質問の内容を言い当てられてどうしたら言いか分からないまま上着のボタンを外した。
「まあ……あれだ。任務をこなすと言う面から言えば結構穴は埋まると思うぞ。アイシャもああ見えて判断は的確であとは経験を積むだけだから今回のリアナが抜けるのは逆にいいことになるかもしれねーからな。うちだってそうだ。今度出動となれば最低でもアンの野郎には待機任務についてもらうからな。いい経験になるんじゃねーかな」
シャムはどこかうれしそうな色を帯びているランの言葉を聴きながら脱いだ上着をハンガーにかける。
「だよね。第三小隊の成長がうちの成功の鍵だから」
「分かってるじゃねーか。それならアンの教育。しっかりしてくれよ」
「了解!」
シャムは元気にそう言うと今度はネクタイに手を伸ばす。
「済みません!遅れました」
慌てて入ってきたカウラがすぐに自分のロッカーを乱暴に開けた。そしてその後ろにはいつも自転車でついてくる係りなので着替えない要がだるそうにドアを閉めて近くのパイプ椅子に腰掛ける。
「足腰はすべての基本だからな……がんばれよ」
「要ちゃん、他人事だと思って……」
外したネクタイを掛けながらつぶやくシャムをにんまりと笑いながら要が見つめてくる。
「まあ他人事だから。姐御!賭けます?」
「馬鹿言ってんじゃねーよ。オメーも今日は着替えろ」
ランの言葉に明らかに嫌そうな顔をする要。だがランの言葉に逆らうことがあまり得策ではないことくらい要も十分知っていた。そのまま自分のロッカーを乱暴に開くとするするとネクタイを外す。
「寒いからね。走るとあったかくなるよ」
「気休めありがとう」
シャムの言葉を聴きながら要はめんどくさそうに上着を脱いでロッカーの中に吊るした。