ナンバルゲニア・シャムラードの日常 81
廊下に出ると隊長室から出てきたカウラにばったり出くわした。
「ああ、シャムか」
「何か言われたの?カウラちゃん」
シャムの言葉にお茶を濁すような笑みを浮かべるとそのままカウラは詰め所に消えていった。それを見守るとシャムはそのまま廊下を足早に進む。突き当りの男子更衣室に飛び込むアン。ざわざわと談笑する声が響く。シャムはそれを見ながら医務室を通り抜け正門に下る階段を降りていった。
いつものことながらにぎやかそうな声が踊り場に響いていた。
「ああ、シャムちゃんじゃないの!」
廊下で部下と馬鹿話をしていたと言う感じの長い紺色の髪の長身の女性。アイシャ・クラウゼ少佐は今回の運行部部長鈴木リアナ中佐の妊娠に伴い運行艦『高雄』の艦長代理に決定している人物だった。
「さっきカウラちゃんが隊長に呼ばれていたけど……」
「ああ、それね。私も呼ばれたわよ」
あっさりと答えるアイシャ。それを見て運行部の女性隊員達はそのまま二人を置いて自分達の部屋へと戻っていった。
「何かあるの?」
心配そうにたずねるシャム。その頭を撫でながらアイシャは相変わらず何を考えているのか良く分からない笑顔を浮かべていた。
「別に何も無いわよ。まあ……お姉さんはパイロットも兼ねるからその辺のことでアン君とか誠ちゃんが使えるのかどうか聞かれていたみたいだけど」
「それでどう答えたの?」
先ほどもアンの指導をしていただけにカウラの二人の評価がシャムには気になった。シャムはとりあえず任務の遂行には支障は無い程度には二人は育っていると思っていた。確かに先ほどのシミュレーションのようなきわめて困難なミッションとなれば相当なフォローが必要なのは事実だった。だが運行艦での出動となれば最低でもカウラと要の第二小隊の面々がフォローに入ることは出来る。そうシャムは思っていた。
「まあ……カウラちゃんだからね。結構厳しいこと言ってたわよ」
「やっぱり……でもしょうがないわよね、こればかりは。お姉さんのおめでただもの」
「まあそのあたりをあの子も考えられるようになれば一人前の部隊長なんだけどね」
いかにもえらそうにアイシャはそう言うとそのまま運行部の部屋の扉を開く。
「シャムちゃん。ランニングでしょ?」
部屋に消えるアイシャに指摘されてシャムはまた自分の目的を思い出してそのまま廊下に沿って女子更衣室目指して急ぎ足で歩き続けた。