ナンバルゲニア・シャムラードの日常 8
「それで……訓練中の新兵君達は?」
イワンはバイクを押しながら歩いているシャムに付き従った。
「ああ、連中はグラウンドでランニングですよ。隊長の気のすむまでこき使われるでしょうね」
「かわいそうに……」
冬の遅い日の出を待ちながら薄暗いグラウンドを走っている警備部員を想像してシャムもしみじみとうなづいた。
「ああ、それなら草取り手伝ってもらおうかしら」
「それはいいですね。隊長に伝えてきます」
シャムの思いつきに笑顔でそう答えるとイワンはそのままグラウンドに向かう畑の道を走っていった。
「これなら今日で終わるかな」
そう言うとそのままバイクを押して駐車場へと向かうシャム。そして彼女の接近を知ると熊のほえる声が響いていた。
「あ、グレゴリウスの料理……」
シャムは荷台に目をやる。そこには発泡スチロールの箱があった。
「そうだ、急がないと」
彼女はそのまま走っていく。駐車場には夜間訓練の関係で警備部員の車が並んでいた。そしてその向こうには見慣れたバンが止まっていて隣には見慣れた人影が見えた。
「遅いな」
吉田はそう言うと端の駐輪所にバイクを止めるシャムに声をかけた。
「別に時間は自由だからいいじゃん」
そう言いながら荷台から箱を下ろすシャム。吉田はにやりと笑うと彼女から箱を受け取った。
「いいもの食ってるんだな。うらやましいよ」
「だって俊平は特に味とか気にしないんでしょ?」
「それはそうなんだけどな……もったいないような食べたいような……」
ヘルメットを脱ぐシャムをちらちらと見ながら吉田はただ箱を抱えているだけだった。
「ご飯作んなきゃね」
そのまま手のヘルメットを座席の下の開いたところに入れて鍵を閉めるとそのままシャムは奥の隊の所有する車両置き場の隣の大きな檻に向かって歩いた。
「わうー」
大きな熊の声が響く。シャムは笑顔で檻に手を入れると巨大なヒグマグレゴリウスはうれしそうに彼女の手をなめていた。