ナンバルゲニア・シャムラードの日常 79
「すみません……僕が注意していれば」
「アン君は悪くないよ。私のせい」
申し訳なさそうなアンにそう言うとシャムはとぼとぼとハンガーを歩いた。整備班員も先ほどの島田の雷を見ているだけに落ち込んだ二人に声をかけることも出来ずに知らぬ顔で通り過ぎていく。
そのまま階段を上り、管理部の透明のガラスの向こうで作業を続ける事務員を眺める。月末も近い。当然のことながら管理部の忙しさは半端ではなかった。
「はあ……」
「落ち込まないでくださいよ……」
シャムのため息に悲しそうにアンが答える。そのままシャムは廊下を進み実働部隊の詰め所の扉を開いた。
「おう!シャム。反省文。四枚な」
小さなランがシャムの机にある紙を叩くとそのまま自分の席へと戻っていった。奥でニヤニヤしているのは吉田。
「俊平……ちくったな!」
「人聞きが悪いことは言うなよ。あれの中身はお前も何度か聞かされてたはずだぞ?……ははーん。忘れてたな?」
「俊平!」
シャムが叫んだ途端、ランが自分の机を思い切り叩いた。要は首をすくめてこの部屋の主を見た後ニヤニヤ笑いながらシャムを見つめてくる。
「くだらねー争いは止めろ。それと付け加えると反省文はボールペンで手書き。誤字脱字があったら再提出だからな」
「はーい」
シャムはそう言うと自分の机に向かった。
「あのう……中佐。自分は?」
「アン。テメーはあれだろ?シャムのあとについて降りたそうじゃないか。それにこいつは士官。テメーは下士官だ。士官は部下の見本とならなきゃなんねーよな。と言うわけでテメーは自分で心の中で反省しろ。反省の形は先輩で上官のシャムが残す」
そう言うとランが一息ついたというように目の前の端末を終了させた。
「シャム!反省文は今週中でいいぞ。どうせオメーのことだから明日までとか言うと誤字脱字ばかりでオヤジさんに出せるようなもんはできねーだろうからな。3キロ走!」
「はいはーい」
いかにも面倒ですと言うように立ち上がるのはフェデロ。正面の岡部はやる気があるようで即座に立ち上がると足首を回して準備を始める。
「そう言えば……誠ちゃんは?」
いつも一番にアクションを起こす誠がいないことに気づいてシャムは首をひねった。
「カウラさんも……」
アンは驚いたように要を見る。要は特に気にしていないというように首筋に刺さっていたジャックを抜いて端末の作業を静かに終えている。その不気味な沈黙の理由を知りたい好奇心に駆られながらシャムもまた静かに立ち上がった。