ナンバルゲニア・シャムラードの日常 7
シャムが部隊の入り口のゲートに到着するといつもは徹夜で警戒しているはずの警備部のメンバーがいる詰め所に人影がなかった。
「誰かいないの?」
バイクのスタンドを立ててそのまま警備室を覗き込む。静かに時計が時を刻んでいるばかりで人の気配はなかった。仕方なくシャムはバイクを押しながらゲートをくぐろうとした。
「何してるんですか?」
突然暗闇から出てきた金髪の大男の言葉にシャムはどきりとして傾いていたバイクを転がしそうになった。
「なによ!びっくりしたじゃない!」
「びっくりしたのはこっちですよ。そこに呼び鈴があるじゃないですか」
そう言いながらこの寒い中タンクトップに作業服という姿の警備班員のイワン・シュビルノフに苦笑いを向けるだけのシャムだった。
「だって……」
「いいですよ。ゲート開けますから下がってください」
イワンはそう言うと警備室に頭を突っ込んでボタンを操作した。ゲートが開き、シャムもバイクを押して部隊に入る。
「でも誰もいないのね……なんで?」
自分よりもふた周りは大きいイワンを見上げながらシャムがたずねた。イワンはしばら頭を掻いた後困ったような表情を浮かべながら口を開いた。
「うちの馬鹿三名が……夜間戦闘訓練装備の装着訓練で暗視ゴーグルを踏み潰しましてね」
「あちゃーそれはマリアのお姉さんは怒ったでしょ?」
あまりの出来事にシャムですら唖然とした。法術の存在を知らしめることになった『近藤事件』以来、寄せ集め部隊の名で呼ばれていた遼州同盟司法局保安隊は著しく評価を上げることとなった。そしてその作戦遂行能力の高さと人材育成能力を買われて発足時からの隊員や部隊長の引抜が続くことになった。
すでに管理部部長、アブドゥール・シャー・シン大尉、実働部隊隊長兼保安隊副長明石清海中佐などが新規の同盟直属部隊に引き抜かれた他、隊員達も次々と出身国の軍に破格の待遇で引き抜かれたりすることが多くなっていた。
特に非正規戦闘を得意とする警備部のメンバーの入れ替えは激しく、年末に半分の隊員が入れ替わるという異常な状況を呈していた。そしてそのことで部長のマリア・シュバーキナ少佐が頭を抱えていることはシャムも承知していることだった。