ナンバルゲニア・シャムラードの日常 68
「あくまでも発動パターンをデータ化してパイロットの意思の負担を減らすのがシステムの目的ですから」
「パイロットの負担?アタシはあまり感じないけど」
「そりゃあお前の法術のキャパシティーが尋常でなくでかいだけだろ?」
突然の声に見上げれば吉田がコックピットの開いた隙間から顔を出していた。
「とりあえず、ご苦労さん。シャム、アンのシミュレータの結果を見てやってくれ」
「うん」
吉田に言われてそのままシートの縁に足をかけてコックピットから這い出すシャム。その様子を神妙な顔でアンが見つめているのが目に入った。
「そんなに硬くならなくてもいいよ。あれでしょ?先週の小隊内模擬戦の……」
「そうです!お願いします!」
いつものアンとは違って明らかにシャムに緊張して顔をこわばらせている。その様子に苦笑いを浮かべながら島田か小柄なアンの肩を叩いた。
「遼南屈指のエースの指導を直接受けられる。緊張するのもわかるがいつもどおりやれよ。その方が覚えることが多いぞ」
「はい!」
島田の助言にもかかわらず相変わらず緊張した表情のアン。シャムはコックピットに頭を突っ込んで中のレベッカとシャムの割って入れないような専門的な話を始めた吉田を置いてそのまま通路を進んだ。
現在全機オーバーホールとデータ整備を行っている為、隣の吉田の『丙式』ばかりでなく、第二小隊の三機のアサルト・モジュールからも同じように太いケーブルと何本も走るコードが道をふさいでいた。
「中尉、切らないでくださいよ」
島田が後ろからこわごわ声をかけてくる。小柄なシャムでもようやく通れるかどうかという隙間をゆっくりと進む。
「これだと神前先輩とかは通れませんね」
アンの言葉にシャムは苦笑しながら進んだ。人の胴体ぐらいある太さのケーブルをくぐればその端子から伸びたコードが行く手を阻む。それを迂回すれば足場の手すりには多数の部品発注のメモが貼り付けられていて、それをよけて通ればまるでジャングルの中を進むように感じられた。
「誠ちゃんの機体は……」
シンプルなグレーのカウラの第二小隊隊長機のコックピット前のコードの群れを抜けたシャムがケーブルとケーブルの間を見つけて頭を上げるが、その隣にあるはずの誠のアニメキャラが全身に描かれた痛特機の姿はまだ見ることが出来なかった。