ナンバルゲニア・シャムラードの日常 67
次第に赤い色の染まる周りの星星の中、一機のアサルト・モジュールの輪郭がしっかりと見て取ることが出来た。
「神前君。ちゃんと進歩しているんですね……こちらの相対速度にきっちりあわせてくるなんて」
めがねを上げながらつぶやくアイシャにシャムはうれしそうにうなづいた。
「だってアタシやカウラ達が指導しているんだもの。当然よ」
その言葉と同時にモニターに映るアサルト・モジュールが一気にこちらへと加速して近づいてくる。
「でもまだまだ」
シャムの言葉と同時だった。青い光の帯を纏った神前のアサルト・モジュールの左手にある剣がゆっくりと振り下ろされる。
「遅い……わざと時間軸をずらしましたね」
「そう、微妙な調整となると誠ちゃんもまだまだだから」
笑顔のシャム。次の瞬間、神前の機体の左手は切り落とされ、シャムの機体の蹴りでそのまま吹き飛ばされて小さくなっていく。周りの星星の赤みが取れ、普通の宇宙空間が広がる。そしてそのままバランスが取れていない神前の機体が急激に大きくなっていくのが分かる。
レベッカはそれを見た後、手元の端末に何かを入力し始める。シャムは法術増幅システムの計器に目を落とした。限界値ぎりぎり。『05式乙型』は法術師専用の機体とはいえ、シャムクラスの法術師の力に耐えるほどの性能は有していないことは知らされていた。
そして目の前にウィンドウが開いて眉をしかめている吉田の顔が浮かんだ。
『率直に言うが効率が悪すぎるぞ。もう少し効果的に力を使え。無尽蔵じゃないんだから』
「そう言うけどさあ。神前君も進歩してきているし……それに相手がどれくらいの実力か分からなかったらどのくらいの力加減で戦えばいいか分からないじゃないの」
思わず口を尖らせるシャム。吉田の隣では静かに様子を見守っている島田の姿が見えた。
「ナンバルゲニア中尉の言うことも尤もですが……このペースであと二機相手にしたら機体の安全は保障できませんよ」
そこまでレベッカが言ったところでキッとシャムは後ろを振り向く。
「あ……技術としてはがんばっているんですけど……この機体の限界というものがありまして……」
「分かっているって」
そう言うとシャムはシミュレータモードのスイッチを落とした。周りの宇宙空間は消えて、白いコックピットの全周囲モニターの内壁が明るく現れる。シャムはそれを見ると伸びをしながら回りを見回した。
「例の法術発動パターンデータシステムが出来れば効率化……できるのかな」
シャムの言葉にレベッカは悲しそうな目をして首を横に振った。