ナンバルゲニア・シャムラードの日常 66
「レベッカ……驚かせないでよ」
「ご……ごめんなさい」
おずおずとそう言うとなんとか体勢を整えてシャムのシートの隙間に入り込んで眼鏡をなおす金髪の女性。レベッカ・シンプソン中尉はそのまま苦しそうに大きな胸の間に入っていた端末を取り出すと足元の端子に伸ばしたケーブルをつないだ。
「それにしても大きいね」
「きゃあ!」
シャムがいたずら心でレベッカの胸に手を伸ばす。レベッカは驚いて胸を押さえるがその拍子に端末を取り落とし、また体を無理に曲げてそれを取ろうとする。
「言ってくれれば良いのに」
「でもナンバルゲニア中尉のせいじゃないですか」
レベッカはいつものびくびくした調子で上目がちにシャムを見つめてくる。シャムはにんまりと笑った後、その様子をモニターで呆れ半分で眺めていた吉田と島田の顔を見て頭を掻いた。
『ふざけてないで。先週の24番のファイルを起動』
淡々とそう言うと吉田達のウィンドウが隠れて回りに宇宙空間の映像が浮かぶ。
「ああ、これね。誠ちゃんとの模擬戦。結構まともになってきたみたいで面白かったんだよな」
シャムの言葉の直後に下からと思われるレールガンの閃光が目の前を走る。
「きゃあ!」
「レベッカ驚きすぎ」
「すみません」
戦闘中の模様を映しているだけの画面を頭の後ろに手を組んで眺めるシャム。その後ろで端末を操作しながら時折走る閃光にびくびくと首を出したり引っ込めたりするレベッカ。
あくまでも法術の発動実験という名目の模擬戦。実際の戦場ではありえないとされる一対一の管制官無しの戦いの帰趨だが、シャムもさすがに所詮はアマチュア程度に思っている誠に負けてやるつもりは無い。
十二発。『05式』のレールガンのワンマガジンの発射数の分だけ閃光が走ったことを確認すると周りの星空は一気に光の帯へと姿を変えた。
「空間制御……」
一瞬周りを見回した後、すぐにレベッカはこれまでのびくびくした気弱な彼女から技術仕官としての職責を全うしようとする士官としての顔に変わって凄まじい速度で端末のキーボードを叩き始めた。