ナンバルゲニア・シャムラードの日常 65
「それじゃあ……吉田さん!」
「おう!」
コックピットの前の大きなパイプに腰をかけて吉田は島田とシャムに振り向いた。その背後に手をやって彼はようやくそこにモニター付の端末が設置されていることに気づいた。
「なるほど、これをいじればいいんだな」
「察しがいいですね。ナンバルゲニア中尉。とりあえずコックピットにお願いします」
「うん!」
島田の言葉にシャムはそのまま跳ねるようにして吉田の前のパイプに飛び乗るとそれが伸びているコックピットのハッチの中に体を滑り込ませる。座りなれたコックピットだが、目の前の計器盤には多数のコードがつながれ、周りに展開されているフルスクリーンは閉鎖不能で早速始動させるがエンジンの起動音も響かずスクリーンのあちこちからハンガーの内部が見て取れた。
「エンジンかけても無駄ですよ」
「やっぱり?」
舌をだしておどけて見せるシャムに島田は大きくため息をついた。
「島田准尉!」
外で女性のか細い声が響いた。
『レベッカだな』
シャムはそう思いながら操作レバーを弄る。確かに手ごたえはあるがエンジンが動いていない以上当然機体が動くはずも無い。良く見るとモードはシミュレーションモードで機体の状況を知らせるモニターには各部の負荷のデータが映っているのが見える。
「俊平!」
「おう、分かったみたいだな」
目の前の空間に吉田の顔が映る。おそらくは首のジャックにコードを挿してシミュレータを起動させたのだろう。周りには宇宙空間のような暗い世界が映し出された。
「アン!吉田さんの足元に体感ゴーグルがあるだろ?」
「はい!」
「じゃあそれをつけてナンバルゲニア中尉の行動を勉強しろ」
島田の声と同時にがさごそと音がするのがシャムからも聞こえてくる。だがシャムは周りの宇宙空間がいつものように珍しくて首をぐるぐると回していた。
「あのー、ナンバルゲニア中尉?」
「うわ!」
振り向いたシャムの後ろに巨大な緑色の二つの球体が現れたのでシャムは思わず叫んでいた。