ナンバルゲニア・シャムラードの日常 62
「アン君。ほら、見てるじゃないの」
シャムが見たのはガラス張りの管理部の部屋でじっとシャム達をにらみつけている菰田の姿。吉田はと言えばまるで相手にする気は無いというようにそのままハンガーへ降りる階段を下っている。
「ああ、例の件ですね!」
降りてくる吉田達をいち早く見つけたのは待機状態のまま固定化されている保安隊の秘密兵器、『カネミツ』の入った巨大な冷却室のスイッチをいじっていた上等兵だった。彼はそのままシャム達に敬礼するとはしごから降りて走り出す。
階段を降りきったところでシャム達がハンガーの入り口のあたりを見ればグローブをはめたままの古参兵達と先ほどの上等兵がなにやら話をしているところだった。
「あいつ等も偉くなったもんだな」
「だってそれなりの仕事はしてくれているじゃん」
「まあな」
吉田がしぶしぶ苦笑いを浮かべるのを見ながらなぜかシャムはうれしい気分になった。
『絶対に貴様だけは守ってやる』
その昔、故郷遼南の内戦の激戦の中、吉田はシャムにそう言ったことがあった。それからは一時期シャムが農業高校に行っていた時期以外はほとんど一緒にすごしてきた二人。
『やっぱり俊平は頼りになるな』
昔を思い出すとなぜかいつも顔が自然とニコニコしてくるのがシャムはうれしかった。
そんなシャム達に向かって先ほどの上等兵が再び駆け寄ってきた。
「島田准尉から案内するようにとのことを言い付かりました」
「いいよ、自分の機体だぜ。行き方位……」
「それが……あの……」
そのまま上等兵を置いていこうとする吉田に上等兵は煮え切らない表情を浮かべた。
「なんだよ」
「調整中でコードとか……」
もじもじつぶやく上等兵に一瞬無視して歩き出そうとした吉田だがすぐにシャムとアンを振り返って立ち止まった。
「あれか……ヨハンのデータバックアップ作業の機材がそのまま接続されてるんだろ?じゃあ頼むわ」
「ありがとうございます!」
上等兵は歓喜の表情で歩き出す。シャムは彼を見ながら彼の様子を入り口のあたりでじっと見守っていた古参兵に囲まれた島田の様子を見て安堵の表情で吉田達に続いた。