ナンバルゲニア・シャムラードの日常 60
「おう、神前。アタシの皿、かたしといてくれ」
ランはそう言うと一人黙ってタンメンを啜っている要に目を向けた。それが合図だったかのように全員の視線が要に向く。
「ただ今戻りました」
そのタイミングで帰ってきたカウラ。その視線の先には黙って麺を啜る要の姿がある。
「西園寺さん……おいしいですか?」
重くなった空気に耐えられなくなった誠の声に静かに目だけ反応する要。しかし何も言わずに再びその目は汁ばかりになったどんぶりの澄んだ中身に注がれる。
「神前、昼過ぎに少しばかりシミュレータの結果について話があるんだが……」
カウラの言葉が要を意識したものではないことはシャムにも分かった。だが明らかにいらだっているような要は手にしていた割り箸を片手でへし折る。
「ああ、カウラさん。その件なら岡部中尉のデータと比較するとよく分かりますよ」
「へ?……ああ、俺とナンバルゲニア中尉、それとクバルカ中佐のデータ。冷蔵庫で閲覧できるはずだよな……そうだ、3キロ走までの間第二小隊と俺とで冷蔵庫でちょっと打ち合わせするか?」
『第二小隊』と強めに発音したのは明らかにカウラの存在を意識している要に気を利かせての発言だとシャムですらよく分かった。シャムはそのまま視線を要に向ける。黙って深呼吸をしている要。その耳が隠れるあたりで切りそろえられた黒髪が静かに揺れていた。
「おう、吉田。コンピュータルームの方の予約はどーなんだ?」
「あ、空いてますよ」
「じゃー第二小隊と岡部は昼が終わったらコンピュータルームだ。それとスミスとマルケス」
ランの言葉に驚いて振り向くフェデロ。それをニヤニヤ笑いながらロナルドが眺めている。
「テメー等はアタシとシミュレーションルームだ。アタシも今週はシミュレーション実習をしてねーからな。失望させるなよ」
「了解であります!」
フェデロが派手に敬礼する。それを見てアンが噴出しそうになるがフェデロのひげをいじりながらの一にらみに静かに視線を落とすしかなかった。
「吉田。シャムとアンの二人連れてハンガーに行け。『05式』の再調整への協力だ。ちゃんと仕事しろよ」
「へいへい」
子供のようなランに言いつけられていかにもやる気がなさそうに吉田はこたえると再び固形糧食を口に運んだ。