ナンバルゲニア・シャムラードの日常 58
シャムが事務所に向かう階段に手をかけて上を見上げるとエメラルドグリーンの髪が揺れていた。
「カウラ……」
「お前がいつまで経っても来ないから中佐が心配していたぞ」
そのまま呆然とカウラを見上げているシャムのところまで降りてきたカウラはそのままシャムのベルトに手を伸ばす。
「キム中尉の所に返すんじゃないのか?」
「そうだね」
シャムはそう言うと慌ててガンベルトをはずした。カウラはそのベルトとシャムの手の中のリロード弾を受け取る。
「じゃあ、これは私が返しておくからな。ちゃんと食事を取れ」
そう言うといつものぶっきらぼうな表情を残して技術部の部屋が並ぶ廊下へとカウラは消えていった。
「あ!ご飯!」
シャムはようやく思い出したように一気に階段を駆け上がる。透明の管理部の事務所では女子職員の話を聞きながら高梨が快活に笑っている様が見える。笑顔でそれを横目にそのまま実働部隊事務所へとシャムは飛び込んだ。
「天津丼!」
「ああ、残ってるぞ」
要のがシャムのテーブルの袖机に置かれた岡持ちを指差す。シャムはすばやくそこから天津丼を取り出して自分の机に置いた。
「慌ててこぼすんじゃねーぞ」
モニターに隠れて見えないランの言葉に苦笑いを浮かべながらシャムはラップをはがす。少しばかり冷えてしまったその表面にシャムはがっかりしたような顔をした。
「冷えるまで帰ってこないほうが悪いよな」
手にした固形携帯食を口に運びながら天井を見上げている吉田。そんな彼に舌を出すとそのままシャムは割り箸を手に取り天津丼に突き立てた。
「そう言えば吉田少佐、来月の節分の時に上映する自主映画の編集ですが……」
誠は暇そうに缶コーヒーを啜りながら天井を見上げたまま微動だにしない吉田に声をかける。声をかけられてもしばらく吉田は口に咥えた固形食を上下させながら聞いているのかどうかわからない様子でじっとしていた。
「あの……」
「しばらく待てよ。その筋の知り合いにいろいろ助言してもらっているところだよ」
固形食を一気に飲み込んで前を向いた吉田の言葉に感心したように誠はうなづいた。シャムはそれを横目に見ながらいつもよりおとなしく天津丼を口に運んでいた。