ナンバルゲニア・シャムラードの日常 56
「ナンバルゲニア中尉!……とクラウゼ少佐?」
「島田君……なんで私のところだけテンション下がるの?」
M10の前で車座になって弁当を食べている整備員の中で一人工具入れを椅子代わりにして座っていた島田の顔が若干困ったような様子になった。
「クラウゼ少佐、こいつを苛めないでくださいよ。一応整備班長としての威厳という奴があるんですから」
巨大なアサルト・モジュールがしゃべっているようなバリトンがハンガーに響いた。思わずアイシャとシャムは静かにたたずんでいるM10に目を向ける。そこには巨大な丸い塊が動いているのが見えた。
「エンゲルバーグ中尉……」
「ヨハン・シュぺルターです!」
大きな塊の上の肉の塊に張り付いた眼鏡がぴくぴく動きながら反論する。保安隊技術部法術関連技術主任、ヨハン・シュぺルター中尉。その七・三分けの金髪をハンガーの中を流れていく風になびかせながらゆっくりとシャム達に近づいてくる。
「そう言えばエンゲルバー……」
「シュぺルターです!飯は食いました!」
アイシャの冗談に機先を制するとそのまま大きすぎる体を左右に振りながらよたよたと技術部の詰め所に向かい歩き出す。
「何やってたの?あの人?」
「ああ、岡部中尉の二番機につけた法術ブースターの記録データを取りに来たとか言ってましたよ」
「ふーん」
島田の答えになんだか納得しきれていないような調子でアイシャがうなづく。それにあわせるようにシャムも意味もなくうなづいた。
「それにしても……まだ昼になって20分経ってないじゃないの」
「ああ、あの人の早食いは昔からですから」
「そうだよね、シャムもびっくりの早食い!」
シャムの滑稽な態度に島田の部下の古参兵達は満面の笑みで笑い始めた。
「西君!」
「はい!」
下座で弁当のヘリについた米粒をつついていた西にアイシャが声をかける。その調子がいつものいたずらを仕掛ける時特有の色を帯びていたので周りの古参兵や島田達はニヤニヤ笑いながら少し青ざめた調子の西の顔を見つめていた。