ナンバルゲニア・シャムラードの日常 55
「それじゃあ私達も……」
「そうね、シャムちゃん!ガンケースとって!」
アイシャに言われたシャムはすばやくアイシャのガンケースを手に取るとそのまま射場の入り口に立った。
「それにしても寒くない?」
外套を着込んだアイシャに比べてシャムは勤務服のまんま。さすがにアイシャに言われて再び冷たい北風が体に堪えてくる。
「急ぎましょ!」
アイシャはそう言うと小走りに土塁の間を抜けて走っていく。シャムもまたガンベルトの銃と手にした弾を確認するとその後ろを走った。
「お疲れ様です!」
ハンガーの前のグラウンドにはすでに警備部の古参兵の面々の姿は無いが、シートを広げて弁当の準備をしている新兵達の姿があった。
「え?こんなところで食べるの?」
シャムの問いに逆に珍しそうな顔で見つめ返してくる。つなぎの襟には兵長の階級章をつけておりどちらかといえば小柄で見た感じ第四惑星『胡州帝国』の出身者のように見えた。
「はあ、自分はこういう青い空が珍しいもので……」
そう言う青年の後ろで同じく兵長の階級章の長身の男が隣の工場の生協の弁当を抱えて歩いている。
「やっぱりみんな胡州出身?」
「いえ、俺と皆川は胡州ですが……パクは大麗だし……カールはゲルパルト……」
「俺は外惑星同盟です!」
長身の男の後ろについてきた赤毛の彫りの深い上等兵がそう答えた。
「やっぱりコロニー出身者には珍しいんだね」
「そうよ。私も初めて青い空を見たときは本当に驚いたもの」
立ち止まってシャムと兵士の会話を聞いていたアイシャがそう言って空を見上げる。雲ひとつ無い空。北風は吹くものの日向はぽかぽかと暖かく感じられた。
「いろんなところがあるんだね」
シャムから解放された上等兵が自分の弁当に手を伸ばすのを見ながらシャムはハンガーの巨大な扉の中に入った。